院長コラム

風邪に対する漢方療法

先日、NTT東日本関東病院の内科の先生で、東洋医学にも造詣が深い先生の講演会へ出席してきました。その講演会では、風邪に対する漢方薬の選択方法など、臨床に即した有意義なお話を伺うことができました。
今回は風邪に対する漢方療法について、講演会での学んだことを共有したいと思います。

 

 

感冒治療の考え方

感冒の原因は主にウイルスですが、多くの感冒治療は病原体に対する直接的な治療でなく、症状を緩和することが目的となっています。ただし、症状を緩和することが本当にいいのか、という問題があります。

たとえば発熱には、低温を好むウイルスに対して抗ウイルス作用の意義があり、免疫関連細胞の活性を促します。つまり、発熱は病原体を排除するための生体反応といえます。
また、倦怠感についても、安静を保とうとするために必要な生体反応と捉えることができます。

したがって、感冒に対しては積極的に解熱鎮痛剤を用いるのではなく、症状に合わせた漢方薬を用いて緩和させる治療が望ましいとの考え方があります。

 

 

○麻黄湯

感冒の初期を急性期といい、温めてウイルスを追い出す作用のある「麻黄」が含まれている漢方薬が急性期の治療の基本になります。「麻黄」の主成分はエフェドリンという物質で、気管支拡張・血圧上昇・覚醒興奮・発汗解熱・利尿などのさまざまな働きがあり、抗ウイルス作用も期待できます。

「麻黄」が含まれている漢方薬のうち、最もその効果が強いのは「麻黄湯」で、元来体が丈夫の方で、発熱がみられるものの、あまり発汗のない風邪の引き始めに有効です。インフルエンザの初期にも使われる漢方薬です。

 

○葛根湯

ただし「麻黄」による副作用として、胃もたれなどの消化器症状が「麻黄湯」でみられることもあるため、実際には比較的「麻黄」の作用がマイルドな「葛根湯」が汎用されます。当院でも感冒の急性期に3日間程度処方する事が多く、頭痛や肩凝りにも効果があり、安静と「葛根湯」だけで感冒症状が軽快する方も少なくありません。

 

○小青竜湯

感冒の初期から水様性の痰、鼻汁、くしゃみがある方には、水分代謝を整える作用を持つ「小青竜湯」が使われます。発熱、頭痛、冷え、悪寒に対しても効果があり、急性期を過ぎた亜急性期にはいっても適応となります。当院では、鼻汁を認める方には「小青竜湯」を第一選択で処方しており、多くのケースで1~2週間服用して頂いています。

 

○ 麦門冬湯

咳が長引く場合や、痰は少なく、一旦出ると止まらなくなる乾いた咳の場合、「麦門冬湯」が奏効する可能性があります。冷たい空気を吸い込んだときに出る咳に対しても、のどを潤わす作用により軽快するそうです。

 

○ 麻黄附子細辛湯

体力や胃腸が弱い方で、悪寒が強く、喉がチクチクし、下痢などでぐったりするような感冒の場合、「麻黄附子細辛湯」が有効との事です。演者の先生によると、膠原病などで免疫を抑制する治療を行なっている患者さんに対して、風邪の引き始めに用いると効果が期待できるとのことでした。

 

○竹ジョ温胆湯

インフルエンザや感冒の回復期に体が消耗して調子が悪く、咳や痰で眠れない方には「竹ジョ温胆湯」が有効との事です。インフルエンザに対してタミフルなどの抗インフルエンザウイルス薬を用いることが多いですが、服薬終了後の体調不良に「竹ジョ温胆湯」は適しているかもしれません。

 

 

感冒に対する漢方薬の種類は非常に多く、実は私自身今まで処方したことのない薬剤もありますが、患者さんの症状や体質に合わせて、より有効な漢方薬を選択して参ります。
私の処方した薬剤を服用された方におかれましては、その効果の有無について率直なご意見を教えて頂きますよう、宜しくお願い致します。