院長コラム

当院における「プロスタグランディンE2(PGE2)錠」を用いた陣痛誘発について

母体や胎児の状態によっては、自然の陣痛発来を待たず、産科的な処置や薬剤を用いて陣痛を誘発する必要があります。
陣痛誘発法には、主に子宮頚管を熟化させる方法と子宮収縮を促す方法の二種類があり、子宮口が硬く、あまり開大していない場合は、最初に子宮頚管を熟化させる方法を行ないます。
いくつかある陣痛誘発・促進剤の中でも「プロスタグランディンE2錠(PGE2)」は子宮口の熟化作用と子宮収縮作用のどちらも持ち合わせています。
今回は、当院における「PGE2錠」を用いた誘発方法を中心に説明します。

 

 

陣痛誘発の主な適応

自然に陣痛が発来せず、子宮頚管が未熟な妊婦さんに対して、以下の場合には子宮頚管を熟化させる方法で陣痛を誘発することがあります。

○ 前期破水(陣発前の破水)

通常は破水すると、自然に陣痛が発来し、子宮頚管も熟化してきますが、破水したのにも関わらず陣発せず、子宮頚管が未熟なままである事があります。
前期破水から時間が経過すると、雑菌が子宮内に入り込んで感染を引き起こす可能性や、子宮内の羊水が減少し胎児が苦しくなってしまう可能性があります。

○ 過期妊娠(妊娠42週以降)になりそうな時

妊娠42週以降の過期妊娠になると、胎盤胎児機能が低下することが知られています。また、妊娠41週を過ぎると羊水混濁の頻度や帝王切開率が増加するとも言われています。
当院では、なるべく妊娠41週前半までに分娩が終了することを目指しています。

○ 巨大児(推定体重4000g以上)が疑われる時

巨大児は帝王切開率や肩甲難産(児頭が娩出した後、肩が出にくい状態)の頻度が上昇します。また、胎児の推定体重は約10%の誤差があるといわれているため、推定体重が3600g程度でも、実際は巨大児である可能性もあります。そこで当院では、特に初産の方の場合、あまり大きくなりすぎる前に計画分娩を検討しております。

○ 羊水過少が認められる時

破水していないにも関わらず超音波検査で羊水過少がみとめられた場合、胎児・胎盤機能が低下し始めている可能性があります。分娩監視装置による胎児心拍で異常がみられない時は、早めに計画分娩することがあります。

 

 

子宮頚管が未熟な妊婦さんの誘発方法

母体や胎児の状態や陣痛誘発の目的によって誘発方法は変わりますが、当院で通常行なっている誘発方法について説明します。

① 7:00来院

朝の7時にご来院頂きます。経腹超音波検査で胎児、胎盤、羊水の状態を確認し、経腟超音波検査で臍帯が子宮口付近にないことを確認します。

② ミニメトロ(プラスチック製の水風船)挿入

内診で子宮口が未熟であれば、腟内を消毒し、ミニメトロを内子宮口の上まで挿入し、生理食塩水を約40ml注入し、留置します。

③ 分娩監視装置による連続監視

その後、病室で分娩監視装置を装着し、胎児心拍、子宮収縮に異常ないことを確認します。尚、分娩監視装置は陣痛促進中は継続して装着しています。

④ PGE2錠による誘発開始

ミニメトロを挿入して1時間が経過したら、PGE2錠を1錠ずつ、1時間ごとに内服して頂きます。例えば、7:10にミニメトロを挿入した場合、8:10に1錠目を服薬し、以後9:10、10:10、11:10、12:10、13:10の、最大6回までの服用となります。

⑤ 子宮収縮を促す陣痛促進剤(点滴)への切り替え

PGE2錠を6回服用、あるいはミニメトロが自然脱出した後、子宮頚管が熟化していれば子宮収縮作用を持つ薬剤(オキシトシンなど)のよる点滴投与に切り替えます。

 

 

全ての陣痛誘発・促進剤に対して、過強陣痛にならないように注意する事が必要ですが、特にPGE2錠は内服薬であるため、他の点滴注射と比べて調節性に欠けるというデメリットがあります。
当院では、子宮頚管の熟化に限り、十分に注意しながらPGE2錠を使用しています。
これからも、常に母児の安全を第一に考え、陣痛誘発を行なって参ります。