院長コラム

子宮体がん術後のホルモン補充療法

子宮体がんの好発年齢は50歳前後ですが、自然閉経前に子宮全摘出を余儀なくされる方も少なくありません。
その際、卵巣を温存することもありますが、両側の卵巣を摘出すること(外科的閉経)もあります。
その場合、女性ホルモンであるエストロゲンの急激な減少により、様々なトラブルが生じます。
今回は「日本女性医学学会雑誌2023年4月号」の内容を参考に、子宮体がん術後のホルモン補充療法について情報共有したいと思います。

 

外科的閉経の問題点

両側卵巣を摘出し、エストロゲン分泌が突然低下すると、急激に更年期症状(ほてり、発汗など)がみられます。
その症状は、自然閉経の場合より発現頻度が高く、程度も大きかった、とする報告があります。
また、エストロゲンは骨密度の代謝や動脈硬化の予防にも関与しており、閉経後には骨密度が低下し、心血管系疾患も増加することが知られています。
しかも、外科的閉経の方は、自然閉経の方と比べて、これらも有意に増悪することが知られています。

 

ホルモン(エストロゲン)補充療法の実際

子宮を有している方にホルモン補充療法(HRT)を行う場合、エストロゲン製剤と黄体ホルモン製剤の両方を使用します。
というのも、エストロゲン製剤のみ使用すると、子宮体がんのリスクが高くなるからです。
したがって、子宮内膜組織の増殖を抑える黄体ホルモン製剤の併用が必須となります。
ただし、子宮を摘出されている方の場合は、もう子宮体がんになる心配はありませんので、エストロゲン単独補充療法(ERT)を行います。

 

ERTの有効性と限界

子宮体がんに対し子宮および両側卵巣を摘出された方にERTを行ったところ、ほてり・多汗・手足の冷えといった更年期症状の一部が有意に改善した、との報告があります。
また他の研究によると、術後にERTを行った群では、行わなかった群に比べて、骨密度低下の抑制や心血管疾患発症リスクの低下がみられた、とのことです。
ただし、ERTを行っても、両側卵巣を摘出しなった方と同じレベルに更年期症状の程度・骨密度・心血管系発症リスクが改善することは、残念ながらありません。

 

子宮体がんが初期の場合、ERTを行っても再発のリスクが増えることはない、といわれています。
私自身、外科的閉経の方には早期のERTが望ましいと考えています。
ただし、ERTを行うためには、子宮体がん治療の主治医のご方針に従う必要がある旨、ご了下さい。