院長コラム

子宮体がんの発生リスクと女性ホルモン

子宮体がんは子宮内膜に発生するがんで、エストロゲン(卵胞から分泌される女性ホルモン)が関係しているタイプと、エストロゲンとは関係のないタイプがあります。
頻度は、前者が多く、持続的なエストロゲンの過剰状態が子宮体がん発生要因の一つと考えられています。
今回は、「女性内分泌クリニカルクエスチョン90」「女性医学ガイドブック更年期医療編2019年度版」などを参考に、子宮体がんの発生のリスク因子について、女性ホルモンの観点からお伝え致します。

 

子宮内膜を増殖させる“エストロゲン”と増殖を抑制する“プロゲステロン”

 

エストロゲンは子宮内膜を増殖させる作用があり、プロゲステロン(排卵後、黄体から分泌される黄体ホルモン)は内膜の増殖を抑制する作用があります。
これら二つのホルモンのバランスが取れている状態が正常です。
しかし、プロゲステロンの作用が弱く、エストロゲンの過剰状態が持続すると、子宮内膜組織のがん化が進む可能性があります。
つまり、エストロゲン過剰状態となる要因が、子宮体がん発生のリスク因子となります。

 

エストロゲンが関連する子宮体がん発生のリスク因子

 

  • 過度の肥満

脂肪でもエストロゲンは産生されており、体重が標準よりも10㎏多いと危険率が約10倍になると報告されています。

  • エストロゲン単独のホルモン補充療法

子宮がある方にホルモン補充療法(HRT)を行う場合は、エストロゲンだけでなく黄体ホルモン製剤を併用し、子宮内膜の増殖を抑制する必要があります。
もし、エストロゲンのみ長期にわたり使用すると、子宮体がんのリスクが2~8倍に上昇するといわれています。

  • 未産

妊娠期間はプロゲステロンがエストロゲンよりも優位になっている状態です。
妊娠・出産したことがない方はプロゲステロン優位の環境を経験していないため、子宮体がんの発生リスクが高くなります。

  • 閉経遅延

日本人の閉経年齢の中央値は50.5歳といわれています。
閉経年齢が高くなれば、それだけエストロゲンが分泌される期間が長くなります。
閉経が53歳以降に延びると、子宮体がん発生リスクが増加するとのことです。

  • 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

PCOSは排卵障害をきたす疾患です。
もし、無排卵の状態が続くと黄体は形成されないため、黄体から分泌されるはずのプロゲステロンは低値のままです。
そのため、エストロゲンによる子宮内膜への刺激だけが持続することになります。

 

上記のリスクを少しでも軽減するためは、肥満にならないよう、適切な運動習慣やバランスの取れた食生活を心掛けることが大切です。
特に、PCOSと診断された方、お産の経験がない方、閉経遅延の方は注意しましょう。
また、HRTの際には服薬指導を守り、処方されている黄体ホルモン製剤の飲み忘れに注意しましょう。