院長コラム

婦人科がん治療中・治療後のケア~漢方療法とディズニー映画?~

がんの標準治療(手術療法・化学療法・放射線療法)による心身への副作用や閉経前の卵巣摘出による卵巣欠落症症状への対応は、患者さんのQOLを考える上で非常に大切です。
今回「婦人科がんサバイバーのヘルスケアガイドブック」(診断と治療社)、「メディカルトリビューン2020年No.12」の記事などを参考に、婦人科がん治療中・治療後のケアについて、漢方療法を中心にお伝えします。

 

 

<漢方療法>

○ 体力低下・骨髄抑制(免疫力低下・貧血)

全身倦怠感・体力低下・食欲不振などの症状に対して、以下の補剤を用いる事が多いようです。補剤は免疫力を活性化する作用や感染症治療を補助する作用もあるため、術後のQOL(生活の質)改善や抗がん剤の副作用軽減に適した漢方薬といえます。

「十全大補湯」:特に皮膚粘膜の乾燥感が強い方。
「人参養栄湯」:皮膚乾燥感および咳嗽などの呼吸器の苦痛が強い方。
「補中益気湯」:手足の倦怠が強く、多汗で夏やせしやすい方。

 

○ 食欲不振

補剤の三剤の他に、「六君子湯」も食欲不振に有効です。消化管の運動を亢進させ、胃酸の分泌を抑制する作用があり、特に胃腸が弱く、消化不良の方に用いられます。

 

○ 口内炎

「半夏瀉心湯」を定時服用、または口内炎が痛む時に屯用で服薬します。半夏瀉心湯1包2.5gを水または白湯に溶かし、口腔内で含嗽してから飲むと良いようです。

 

○ しびれ・痛み

化学療法剤によるしびれには「牛車腎気丸」が有効ですが、治療開始前(症状が出る前)からの服薬が理想的とのことです。また、痛みが強い時には「芍薬甘草湯」の屯用、特に“冷え”で痛みが増強する場合には「桂枝加朮附湯」の定時服用または屯用が良いようです。

 

○ 化学療法による下痢・放射線性腸炎

化学療法による下痢には「半夏瀉心湯」、放射線性腸炎の方で“冷え”が強い場合には「大建中湯」、体重が減少し、腹痛が主体の場合には「小建中湯」が用いられるようです。

 

○ 更年期障害・抑うつ症状

両側卵巣摘出術後、更年期障害に悩まされる方は少なくありません。その場合、ホルモン補充療法(HRT)が有効ですが、がんの種類や合併症によってはHRTが行えないケースがあります。そのような方には、漢方療法は非常に有用です。ホットフラッシュや肩や腰、手術創などの慢性疼痛といった身体的症状が強い方は「桂枝茯苓丸」、ホットフラッシュと頑固な便秘の方には「桃核承気湯」、ホットフラッシュや冷えに加えて、イライラなどの精神症状が強い方には「加味逍遥散」、抑うつや入眠障害など精神症状が強い方には「加味帰脾湯」が用いられることが多いようです。

 

以上お示しした漢方薬を中心に、1日3包の場合は2種類まで、1日2包の場合は3種類までを目安に、症状や体調に合わせて処方します。

 

 

<ディズニー映画>

医学情報誌「メディカルトリビューン2020年No.12」に、「ディズニー映画によりがん患者さんのQOLが改善された」とのオーストラリアでの研究の記事が記載されていました。
映画は「シンデレラ」「わんわん物語」「王様の剣」「メリー・ポピンズ」「ジャングル・ブック」「おしゃれキャット」「ロビン・フッド」「リトル・マーメイド」の8作品。
記事によると、婦人科がんに対する化学療法中の視聴で、緊張や不安が和らぎ、社会活動の喪失感や倦怠感、疲労状態などが改善された、とのことです。

 

 

漢方薬は禁忌の方が少ないため、比較的使いやすく、その多くは速効性があります(速いものでは30分~1時間程度)。
また、ディズニー映画に限らず、ある種の映画やドラマ、音楽などは、婦人科がん治療中の精神状態や疲労状態などの改善に一役買っているかもしれません。
がんの治療は辛いですが、様々なツールを用いて副作用を軽減し、QOLを改善するようにしていきましょう。