院長コラム

低用量ピルとホルモン補充療法の違い

避妊目的で使用する低用量ピル(OC)、月経困難症の治療薬である低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)、更年期障害・閉経後骨粗しょう症の治療としてのホルモン補充療法(HRT)は、産婦人科領域で用いる代表的な女性ホルモンです。
しかし、OC・LEPとHRTは大きく異なります。
今回は、OC・LEPとHRTに用いる薬剤の相違について説明します。

 

 

OC・LEPとは

OCに求められるのは確実な避妊効果です。そのため、OCは排卵を抑制し、子宮内膜を薄くして受精卵が着床しづらいようにし、精子が子宮内へ進入するのを阻止するため、頚管粘液の性状を変化させるという働きがあります。

LEPはOCと同じホルモン剤ですが、OCが避妊目的で処方され、自費診療であるのに対し、LEPは月経困難症の治療を目的とし、保険適応である点が異なります。月経痛の原因の一つに、子宮内膜から分泌される「痛み物質」が挙げられますが、子宮内膜を薄くすると「痛み物質」の分泌が減少し、月経痛が軽快します。つまり、子宮内膜を薄くさせるというOCの作用を利用して、月経困難症の治療薬として開発されたのがLEPです。

 

 

HRTとは

一方、HRTは更年期あるいは両側卵巣切除後など、エストロゲン減少に伴う更年期障害や骨密度低下に対する治療法です。エストロゲンには更年期症状を改善させ、骨密度の減少を抑える効果がありますが、エストロゲンのみ使用した場合、子宮内膜を厚くし、子宮体がんのリスクを上げてしまうことが知られています。そのため、子宮がある女性では、子宮内膜増殖を抑制する働きがある黄体ホルモンを併用する必要があります。

 

 

OC・LEPとHRTの相違

OC・LEPとHRTの相違で最も重要であるのは、使用されるエストロゲン活性(強さ)の違いです。HRTで用いるエストロゲン活性を1とすると、OC・LEPのそれは4~8倍であるといわれています。HRTに比べてエストロゲン活性が高いOC・LEPは、エストロゲンの重篤な副作用である血栓症リスクも高くなります。特に高齢なるとそのリスクは更に増加しますので、OC・LEPの服用は40歳以上で慎重投与、50歳以上あるいは閉経後は禁忌となります。

また、OC・LEPとHRTに用いる黄体ホルモンの種類も異なります。OC・LEPに含まれている黄体ホルモンは排卵抑制作用が強く、男性ホルモン作用を有するものもあります。一方、HRTで用いる黄体ホルモンは排卵抑制作用が弱く、男性ホルモン作用はみられません。ちなみに、OC・LEPはほぼ100%の避妊効果がありますが、HRTは避妊には適さない旨、ご注意下さい。

 

 

OC・LEPからHRTへの移行

OC・LEPを服用していると、いつ閉経になったのかがわかりませんが、50歳でOC・LEPの服用を終了し、2~4週間後に血液検査で女性ホルモンを調べると、現在閉経しているかどうか、ある程度診断することができます。もし閉経状態であり、更年期障害や骨密度の低下が認められた場合には、HRTを開始することがあります。

 

 

全世界の新型コロナウイルス感染者数は男女ほぼ同数ですが、死者数は男性より女性が少ないと発表されました。エストロゲンの影響については不明ですが、免疫力向上に関与しているとの意見もあります。
いずれにせよ、女性の各ライフステージに併せて適切にホルモン治療を行なうことは、女性の幸せに繋がると私たちは信じています。