院長コラム

不育症診療について

2019年3月、「不育症管理に関する提言2019」が発行されました。
不育症の検査・治療は産婦人科診療の中でもかなり専門性が高い分野の一つであり、当院では対応していないため、国立成育医療研究センターや慶応義塾大学病院の不育症外来へ紹介させて頂いております。
今回は、この提言の内容を参考に、不育症診療の概要について説明致します。

 

 

不育症とは

2回以上の流・死産の既往がある場合を不育症といいます。異所性妊娠(子宮外妊娠)や絨毛性疾患(胞状奇胎など)は流産回数に含みませんが、すでにお子さんがいらっしゃる場合でも、2回以上の流・死産の既往があれば不育症とします。

流産は10~15%の頻度で生じ、2回以上の流産既往は4.2%、3回以上の流産既往は0.88%と報告されています。

 

 

不育症の検査・スクリーニング

(1) 推奨される一次スクリーニング

1. 問診

○ 年齢:女性の年齢が35歳以上から流産率は増加し、特に40歳以上では40~50%と急増します。

○ 既往流産回数:流産既往回数が増えるにつれて、次回妊娠で赤ちゃんを得る確率は減少します。

○ 身長・体重・BMI:女性の肥満は流産の増加だけでなく、妊娠合併症の増加に繋がります。肥満の方は、食生活や運動習慣を見直す必要があります。

○ 喫煙歴・アルコール摂取歴:喫煙および過度なアルコール摂取は流産率をあげます。禁煙は必須ですが、飲酒に関しての明確な基準はありません。ただし、1週間に2~4回以上の飲酒は流産を増加させるという報告がありますので、過渡の飲酒は控えるように指導します。

 

2. 子宮形態異常

子宮形態異常は不育症例で一般対象よりも高頻度に認められます。診断にあたっては、経腟3D超音波を用いることが高く推奨されています。以前盛んに行なわれていました子宮卵管造影検査は、放射線被曝やヨードの影響があるため、最近ではあまり推奨されていないようです。

 

3. 内分泌検査

甲状腺機能低下症と流産とは明確な関連性があるため、TSH,fT4値を測定し、異常があれば抗TPO抗体を測定します。

 

4. 夫婦染色体検査(可能であれば)

十分な検査と同意のもと、不育症専門外来で行なうことがあります。

 

5. 抗リン脂質抗体

抗リン脂質抗体は流・死産、妊娠高血圧腎症と関連があるため、スクリーニング検査として推奨されています。保険診療外の項目があるため、不育症専門外来で検査されることが多いと思われます。

 

(2) 選択的検査

1. 血栓性素因
2. その他の抗リン脂質抗体

海外では行なっていない検査もあり、十分なエビデンスはないようですが、ある種の血栓性素因や特殊な抗リン脂質抗体を有している患者さんが、不育症治療を受けることにより妊娠分娩の確率が増加した、と報告されています。

 

3. 流産検体の病理学的検査
4. 流産検体の染色体検査

これら検査の結果は、早めに妊娠をトライするか、治療法を再考するか、方針決定の材料になります。

 

 

不育症の治療

○ 子宮形態異常

中隔子宮に対して、子宮鏡下中隔切除術が有用であるとの報告があります。ただし、比較的高齢女性では術後に不妊症になってしまう方もいらっしゃるため、慎重に判断する必要があります。

 

○ 甲状腺機能異常

不育症を呈する甲状腺機能低下症の方には「チラージンS」による適切な治療が必要といわれています。不育症専門医だけでなく、甲状腺専門医と連携することもあります。

 

○ 抗リン脂質抗体症候群

低用量アスピリン療法あるいは低用量アスピリン+ヘパリン療法が基本になります。アスピリンは妊娠前から、ヘパリンは妊娠判明後直ちに開始することが勧められています。

 

 

不育症の検査をご希望の方には不妊症専門外来へ紹介致しますが、BMIが高い方、喫煙されている方、飲酒をされている方、別件で甲状腺機能低下症が判明した方に対しては、まずは当院での生活習慣指導や甲状腺専門医への紹介をさせて頂くことがあります。
当院では、ご夫婦のお考えを尊重しながらも、より望ましい方針を提案させて頂こうと思っています。