院長コラム

エストロゲンと精神症状

女性ホルモンであるエストロゲンには気分をコントロールする作用があるため、エストロゲンが乱れると、様々な精神症状をきたすことが知られています。
今回は、エストロゲン分泌が低下する“産後”と“閉経期”の精神症状についてお伝えします。

 

産後の精神症状

妊娠中、胎盤からエストロゲンは分泌されますが、分娩時に胎盤が娩出すると、母体のエストロゲンは急激に低下します。
産後の精神症状をきたす病態には、「マタニティーブルーズ症候群」「産後うつ病」「産褥精神病」があります。
「マタニティーブルーズ症候群」は、約30%の褥婦さんにみられ、軽度のうつ状態を示します。発症時期は産後5日以内で1~2週間継続することがありますが、その多くは治療せずに軽快します。
「産後うつ病」は約5~20%の褥婦さんにみられ、軽度から重度のうつ状態を示します。産後2~5週以降にみられることが多く、数か月経過し、薬物療法や精神療法が必要な場合も少なくありません。当院では漢方療法を行うことが多く、必要に応じてメンタルクリニックへ紹介しています。
「産褥精神病」は約0.1%の褥婦さんにみられる急性精神病状態であるため、早期にメンタルクリニックへ紹介します。同時に、母子を守るため所轄保健所にも連絡し、情報を共有するようにしています。

 

更年期の精神症状

更年期には卵巣機能の低下に伴い、エストロゲンの分泌が減少します。更年期障害はエストロゲン低下に加えて、環境因子や性格など多くの要因が様々に絡み合って発生します。
のぼせ、発汗といった血管運動神経症状に対しては、低下したエストロゲンを補うホルモン補充療法(HRT)が主流となります。
抑うつ、いらいら、不安感などの精神症状が主体の更年期障害に対してもHRTが効果的な場合もありますが、漢方薬(加味逍遙散、抑肝散など)、向精神薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬:SSRIなど)を併用することも少なくありません。
これらの薬物療法を行ったにもかかわらず、精神症状が改善しない場合は、近隣のメンタルクリニックへ紹介致します。

 

当院では、エストロゲンの低下に伴う精神症状に対して、ホルモン剤、漢方薬、向精神薬などで対応しています。
また、近隣のメンタルクリニックとも連携し、最善の治療を目指しています。
産褥期や更年期の精神症状にお悩みの方は、メンタルクリニックまたは婦人科外来を早めに受診されることをお勧めします。