院長コラム
閉経前女性の子宮筋腫に対する対応
子宮筋腫は女性ホルモンの影響で増大するため、一般的に閉経後は縮小する傾向にあります。また、子宮筋腫による過多月経・過長月経に悩まされていた方も、閉経後は月経のトラブルはなくなります。つまり、閉経近くの方は、いかに閉経までの期間をしのぐかがポイントになります。しかし、日本人の閉経年齢の中央値は50.5歳(52.1歳との研究も)といわれていますが、かなり個人差も大きいため、いつ閉経になるかを予測することは非常に困難です。
今回は、更年期女性における子宮筋腫の取り扱いについて、「女性医学ガイドブック 更年期医療編 2019年度版」(日本女性医学学会編)を参考に、当院における対応についても交えながら説明します。
手術療法の対象
過多月経や下腹部痛などの自覚症状の有無によらず、超音波検査やMRI検査により、肉腫といった悪性の所見が疑わしい場合は、悪性腫瘍の手術が可能な高次施設へ紹介しています。
また、具体的な基準はありませんが、新生児の頭の大きさよりも大きな子宮筋腫の場合は手術療法が望ましいこともあり、高次施設へ紹介しています。筋腫がかなり大きいと、下肢の静脈の流れが滞り、血栓症のリスクが高まります。更に、尿管を圧迫して腎不全となり、人工透析を余儀なくされた方もいらっしゃいます。
あまり大きくなくても、子宮筋腫の内部が変性して激しい疼痛を認める方や、粘膜下筋腫による過多月経・過長月経を認める場合には、腹腔鏡下手術や子宮鏡下手術が可能な施設へ紹介致します。
偽閉経療法の対象
医学的に手術の適応もなく、ご本人も手術をご希望されない閉経近くの方の場合、過多月経・過長月経など日常生活に支障をきたす程の症状が見られるのであれば、積極的に薬物療法を行ないます。
薬物療法の内、子宮筋腫の縮小が期待できる偽閉経療法が主体となり、当院では主に月1回の皮下注射を行なう「リュープロレリン1.88注(GnRHアゴニスト)」と1日1回内服する「レルミナ錠(GnRHアンタゴニスト)」の2種類の治療を行なっていますが、最近では後者の治療がほとんどとなっています。
どちらも、女性ホルモン低下による副作用として、のぼせ・発汗などの更年期障害様症状や骨量の減少があり、原則として6か月までの投与しか認められません。
ただし、6か月使用後、しばらくすると月経が再開し、子宮筋腫が増大するケースも少なからずあります。また、更年期障害様症状が強く、治療継続が困難になることもあります。
当院の場合、偽閉経療法中ののぼせ、発汗に対して、漢方薬の当帰芍薬散や桂枝茯苓丸を用いています。特に桂枝茯苓丸は子宮筋腫の縮小効果も指摘されているため、多くの方に処方しています。
また、6か月間の使用でも閉経へ逃げ込めない場合、6か月間あけて骨密度検査で明らかな骨量の減少がみられなければ、偽閉経療法を再度6か月行なうことがあります。休薬期間の月経症状が強い場合や筋腫の増大傾向がみられるケースでは、骨密度に注意しながら偽閉経療法を閉経になるまで複数年繰り返す方もいらっしゃいます。
子宮動脈塞栓術(UAE)の適応
UAEとは子宮動脈の血流を塞栓物質で人工的に塞ぎ、子宮筋腫への血液の供給を遮断する治療法です。保険適応があり、閉経への逃げ込み療法として有用ですが、施行できる施設が限られているため、他の治療と比べるとあまり多くはありません。
子宮筋腫はありふれた疾患で、症状を認めないことも多いため、特に更年期女性の場合、放置されている方は少なくありません。
しかし、症状がなくても、気付かないうちに大きくなることがあります。
2年に1回の子宮頚がん検査などを利用して、定期的に子宮筋腫もチェックするようにしましょう。