院長コラム
鉄欠乏性貧血を予防するためには ~思春期から若年成人の方へ~
何らかの原因で鉄の供給が需要に追いつかず、ヘモグロビンの産生に必要な鉄が不足して起こる貧血を鉄欠乏性貧血といいます。
今回は、「ドクターサロン 2019年5月号」の「鉄代謝」の記事、「ガイドライン外来診療2018」などを参考に、特に思春期から若年成人女性の鉄欠乏性貧血予防について説明します。
月経による「鉄の喪失」と食事による「鉄の摂取」
思春期に入り初経を迎えると、定期的な出血、つまり「定期的な鉄の喪失」を経験することになります。鉄の喪失分を補うためには、バランスのとれた食事でしっかりと鉄を
摂取する必要があります。
鉄分が多い食品としてホウレンソウや小松菜などの野菜やひじきなどの海藻類が有名ですが、これら植物性食品に含まれている鉄分は「非ヘム鉄」といい、鉄の吸収率は非常に悪く、数%程度といわれています。
一方、肉や赤身の魚などの動物性食品に含まれている鉄分は「ヘム鉄」といい、吸収率は20~30%といわれており、野菜と比べると非常に高くなっています。従って、鉄欠乏性貧血の予防という観点で考えると、野菜だけでなく、肉や魚もしっかり食べることが勧められます。
ちなみに、鉄分の多い食品してレバーも有名ですが、食べ過ぎるとコレステロールも増えますので注意しましょう。また、ビタミンCを一緒に摂取すると鉄の吸収が良くなるので、食習慣として積極的に取り入れましょう。
極端なダイエットは厳禁
思春期から20代前半の女性の中には、極端なダイエットにはまる方もいらっしゃいます。
そのことは骨粗鬆症、卵巣機能不全だけでなく、貧血の原因にもなります。そもそも、若い女性が摂取する鉄の絶対量が不足していますので、無茶なダイエットすれば当然鉄欠乏貧血になります。
野菜だけしか食べない方や単品ダイエットをしている方は、すぐにバランスのとれた食生活に切り替えるようにしましょう。
月経による「鉄の喪失」を減らすためには
鉄分の摂取が基準値を上回っていても、月経量が多い場合(過多月経)、月経の持続期間が長い場合(過長月経)、頻回にみられる場合(頻発月経)は、鉄の喪失が摂取を上回るり、鉄欠乏貧血になる可能性があります。
避妊に用いる経口避妊薬(OC)、月経困難症の治療に用いる低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)は子宮内膜を薄くする作用があります。月経血とは、剥がれ落ちた子宮内膜ですので、内膜が薄いということは経血量が少量であることを意味します。つまり、OC・LEPの服用が鉄欠乏性貧血の予防に繋がります。
また、近年は生涯の月経回数が多過ぎるといわれており、LEPの中には、月経様出血を3~4ヵ月に1回のペースに減らす様な服用方法にしている製品も出てきました。
少しでも避妊したい方や月経痛を認める方は、貧血の予防のためにもOCやLEPの継続的服用をお勧めします。
鉄欠乏と神経症状
鉄は脳の細胞の活性化や神経系の酵素などにも必要であるため、鉄欠乏と神経症状との関連が指摘されています。
鉄欠乏性貧血になる前段階として、血液中の鉄が減少します。さらにその前段階として、貯蔵鉄が減少します。この状態を鉄欠乏状態といいます。
ある思春期女子の研究では、貧血がない鉄欠乏状態の段階でも、記憶力テストで差が認められたとの事です。つまり、実際に貧血になっていなくても、鉄が欠乏しているだけで、神経系にトラブルが発生していることが考えられます。血液検査で貧血がないからといって安心はできません。
貧血の予防にはバランスのとれた食生活が基本です。どうしても肉や赤身の魚の摂取量が少ない場合は、鉄の含んだサプリメントを利用してもいいでしょう(当院ではエレビットを取り扱っています)。
また、過多月経、過長月経を認める方の中には、若年であったとしても、子宮筋腫が原因になっていることがあります。月経量が多いと感じたら、是非婦人科を受診して下さい。