院長コラム
神経性やせ症(拒食症)について
摂食障害は思春期の女性に好発する食行動異常に基づく疾患で、慢性的な経過をたどり、貧血・骨粗鬆症・低血糖・胃腸障害などを引き起こし、重症例では死に至る事もあります。
摂食障害には、神経性やせ症、神経性過食症など、いくつかの疾患に分類されますが、今回、特に注意が必要な「神経性やせ症」について、「よぼう医学 新年号」(東京都予防医学協会発行)の記事を中心に情報を共有したいと思います。
神経性やせ症の要因
発症しやすい遺伝素因もあるようですが、ストレスをためやすい完璧主義・強迫性・不安症などの生活傾向が指摘されています。
また、通常我々はストレスに適切に対処するため、他人の力を借りたり、逃げたりなど、様々な方法を使い分けています。しかし、神経性やせ症の方は、「頑張る」「我慢する」といった行動に頼る傾向があり、「黒白はっきりさせる思考」や「“○○すべき”思考」といった偏った認知がみられるそうです。
神経性やせ症の身体症状
○全身:
栄養障害に伴う疲労感が認められ、体重・BMI・体脂肪率などが減少します。
○ 中枢神経系:
抑うつ状態・注意欠如などが認められ、脳の画像検査で脳室拡大など異常所見がみられることがあります。
○ 心・循環器系:
動悸・めまい・息切れ・胸痛・四肢冷感を認め、起立性低血圧や徐脈・不整脈がみられることがあります。
○ 骨格系:
骨発達の停止・骨粗鬆症が認められ、病的な骨折をきたすことがあります。
○ 生殖系:
性成熟が停止し、無月経などをきたすことがあります。
○ 内分泌系:
疲労・低体温が認められ、寒がりになっていることがあります。
○ 胃腸系:
嘔吐・腹痛・便秘・食後の腹部膨満を認めることがあります。血液検査で肝機能障害がみられることもあります。
また、中学校における早期発見のサインとして、35度台の低体温、寒がり、しもやけ、元気がない、顔色が悪い、給食を残す、食事時間が長い、登校を渋る、保健室利用が増える、といった身体症状や行動の変化が指摘されています。
神経性やせ症の治療のポイント
神経性やせ症の治療にあたり、ストレスを増やすような考え方や思い込みを修正し、困難やストレスを抱えた時に“やせ”に逃避しないようにすることを最終目標とします。
そのための第一歩として、患者さんを健康体重に回復させるようにします。性成熟女性の場合は月経と排卵の再開を目指し、小児・思春期の場合は身体・性機能の発育を目標にします。
ただし、患者さんにとって体重が増加するということは恐怖であるため、目標体重を設定し、徐々に体重を増やしていく方法がとられます。患者さんは、体重増加の恐怖と現実的な利益(栄養状態の回復)を天秤にかけながら、少しずつ体重増加を受け入れ、ストレス対処能力の向上に伴い、更に体重増加を受け入れるようになるとのことです。
神経性やせ症の無月経に対する治療
体重増加が基本であり、標準体重の下限まで回復することを目標とします。しかし、長期の無月経、例えば1年以上無月経が持続している場合、骨粗鬆症の発症に繋がるため、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤などでホルモン治療を開始することもあります。
ただし、体重が標準体重の70%以下の場合は、貧血を助長させ体力を消耗させる可能性があるため、一般的にあえて出血を起こさせるような治療は行いません。
神経性やせ症の治療は、精神科医が主体になりますので、当院に受診された神経性やせ症の患者さんは、原則として近隣のメンタルクリニックへ紹介致します。
その上で、無月経、無排卵、低エストロゲン状態からの回復のために、当院管理栄養士による指導や、ホルモン療法・漢方療法などの薬物療法など、状況に合わせて治療を進めて参ります。