院長コラム

産婦人科領域で使用する薬剤とドーピング~禁止されている薬剤~

前回は、産婦人科領域で頻用する薬剤のうち、使用可能な薬剤について説明しましたが、今回は禁止物質を含む薬物について情報共有したいと思います。

 

 

【ドーピング禁止物質を含む薬剤】

① 抗エストロゲン薬

排卵障害による不妊症の治療薬として、排卵誘発剤(クロミッド、セキソビット)を用います。この薬剤はエストロゲンと拮抗する作用があり、脳から卵胞刺激ホルモンや黄体化ホルモンの分泌を促します。その影響で男性ホルモンの産生が増加することから、禁止物質となっています。

 

② ダナゾール:ボンゾール

子宮内膜症の治療薬として、かつては頻用されていましたが、男性ホルモン作用が強く、近年ではあまり使用しません。

 

③ 選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)

SERMは骨粗鬆症の治療薬(エビスタ、ビビアント)や乳がんの治療薬(ノルバデックス)として用いられていますが、男性ホルモン散生を促すため、禁止物質となっています。

 

④ 女性・男性ホルモン配合薬

以前は更年期障害などの治療に汎用されていた、ボセルモンデポー、ブリモジアンデポー、ダイホルモンデポーなどは、男性ホルモンを含むため禁止物質です。

 

⑤ 漢方薬

月経痛、不妊症、更年期障害などの治療として用いる、当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸などの漢方薬は、産婦人科診療上なくてはならない薬剤です。
しかし、多くの生薬が含まれている漢方薬の成分を全て明らかにすることが不可能であり、どの漢方薬も禁止物質が含まれている可能性は否定でません。
従って、原則としてアスリートには漢方薬を使用しないようにといわれています。

 
⑥ アロマターゼ阻害剤

閉経後の乳がん治療として用いられるアロマターゼ阻害剤(アリミデッス)は、男性ホルモン増加作用があるため、禁止物質となっています。最近では、アロマターゼ阻害剤であるレトロゾールが排卵誘発剤として使用されるケースもあるようですので、注意が必要です。

 

 

【禁止薬剤使用の条件】

競技者には平等に治療を受ける権利があるため、次の4つの条件を全て満たすと認定されれば、使用を申請することができます。

① 治療上使わざるを得ない(使用しないと健康上重大な障害が生じる)。
② 治療上使用した結果、元の健康時のレベル以上に競技力を向上させない。
③ 他に適切な代替治療がない。
④ ドーピングの副作用に対する治療ではない。

これを治療使用特例といい、申請書の必要事項を主治医と競技者が記入し、提出すべき組織へ提出します。

 

 

女性アスリートの方で現在服用している薬剤があれば、ドーピング禁止薬剤か否かを処方医または薬剤師にお尋ね下さい。
また、これから新たに服薬が必要になる場合には、ドーピング禁止物質が含まれていない薬剤か、予め主治医に確認しましょう。
不明な点はJADAのホームページでご確認下さい。