院長コラム
思春期の月経前症候群の現状と対応
月経前症候群(PMS)とは月経前の身体的・精神的な不快症状のことであり、月経前不快気分障害(PMDD)とは、PMSの中でも特に精神症状が強いタイプを言います。
今回は、思春期におけるPMS/PMDDの現状と対応について、医学雑誌「産科と婦人科 208年12月号」などを参考に説明します。
思春期のPMS/PMDDの現状
わが国のある地域において、PMS/PMDD重症度に関する高校生と成人女性との比較研究が行なわれました。その研究では、PMS軽症またはPMSを認めない人の割合が、成人では約94%であるのに対し、高校生では約86%でした。また、PMS中等症~重症の割合とPMDDの割合は、成人ではそれぞれ約5%と約1%でしたが、高校生では成人の倍以上である約12%と約3%でした。
つまり、PMS/PMDD重症度は成人女性よりも高校生の方が高いことが示されました。
また、女子高校生に対して行なった月経痛重症度とPMS/PMDD重症度との関連を調べた研究では、月経痛が全くない方の場合、中等度以上のPMS/PMDDを認める割合は約5%程度でした。しかし、月経痛が軽度の方では約7%、中等度の方では約13%、重症の方では約25%に、中等度以上のPMS/PMDDがみられることがわかりました。
つまり、月経痛とPMS/PMDの重症度には相関関係があり、お互いに悪影響を及ぼし合っている可能性があります。
PMS/PMDDによる学校欠席
女子高校生を対象にした学校欠席についての調査では、PMS/PMDが原因で月に1回以上学校を欠席する方は約12%にのぼり、就業女性の休業率とほぼ同程度でした。
様々なPMS/PMDの症状の中でも、不眠・過眠、身体症状、社会活動低下があると、症状がない方と比べて、学校を欠席するリスクが2倍以上増加するとの事です。
女性アスリートのパフォーマンス障害
排卵から月経までの時期(黄体期)に女性アスリートのパフォーマンスが落ちる傾向が知られており、その原因の一つとしてPMS/PMDDの関与が指摘されています。
また、PMS/PMDDと月経痛では、どちらが社会生活への影響を与えるか、といった比較研究では、「仕事・家事・勉強の効率低下」「対人関係障害」「練習・試合でのパフォーマンス障害」において、月経痛よりもPMS/PMDDの方が悪影響を及ぼすと報告されています。
思春期のPMS/PMDDの管理・治療
現在、思春期のPMS/PMDDの管理・治療について次のように考えられています。
まずは、PMS/PMDDについて説明することから始まります。疾患について理解することが、その疾患の発症・増悪に対して予防的な効果があるといわれています。その上で、月経周期に伴う症状を日記にすると、症状の発現時期や重症度をご本人自身が認識しやすくなります。そして、規則正しい生活、適度な運動、バランスの取れた食事、良質な睡眠・休息など、生活習慣改善を心掛けます。
生活習慣改善でもが軽快しない時は、薬物療法に移ります。成人女性のPMS/PMDDに対する治療と同様、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤(LEP)を使用することが多く、漢方薬を使用することも少なくありません。また、抑うつなどの精神症状が強ければSSRIという抗うつ薬を使用することもあります。
当院では、思春期女性に対してLEPを第1選択と考えていますが、お母様の中には、中高生がホルモン剤を服用することに躊躇される方もいらっしゃいます。私たちはご本人だけでなく、ご家族に対してもLEPの有用性と注意点について、十分な説明を心掛けています。
以上のような薬物療法を行なっても、特に精神症状に対する効果が不良な場合は、メンタルクリニックなど専門機関へ紹介することになります。
思春期のPMS/PMDDは、勉強やクラブ活動など学校生活に大きな影響を与える可能性があります。月経痛と比べてPMS/PMDDの認知度は低いため、辛くても誰にも相談せず、一人で我慢している方も多いのではないでしょうか。
月経前の心身の不調でお悩みの方は、是非一度ご相談にいらして下さい。