院長コラム

妊娠中の便秘と下剤

妊娠中は黄体ホルモンの影響や増大した子宮の圧迫などにより便秘になりやすく、生活習慣だけでは改善しない妊婦さんも少なくありません。
今回は、妊娠中の下剤の使い方について、「妊婦・授乳婦のための服薬指導Q&A」(医薬ジャーナル社)などを元に、説明します。

 

 

妊婦さんが便秘になる理由

卵子が入っている卵胞という袋は、排卵した後、黄体という組織に変化します。その黄体から、妊娠を維持するために欠かせない黄体ホルモンが分泌されます。妊娠が成立した後は、妊娠10週から分娩が終了するまで、黄体ホルモンは胎盤から分泌されるようになります。

黄体ホルモンには体内に水分を吸収する働きがあり、腸管からの水分の吸収を促進させます。その結果、便の水気が減って硬くなり、便の移動がスムースにいかなくなるため便秘となります。

また、黄体ホルモンには妊娠を維持するために、つまり流早産を防ぐために、子宮の筋肉(平滑筋)収縮を抑制する作用があります。しかし、子宮だけでなく、同じ平滑筋の仲間である消化管の筋肉にも作用してしまい、消化管の収縮(ぜん動運動)も抑制されることがあります。すると便を運ぶ力が弱くなるため、便秘になりやすくなります。

更に、妊娠中期~後期になると子宮が増大し、腸管が持続的に子宮からの圧迫を受けることも、腸のぜん動運動が低下する原因と考えられています。

つまり、妊娠中の便秘を改善するためには、腸内の水分を保ち、腸ぜん動を活発にさせることが重要です。

 

 

緩下剤と大腸刺激性下剤

下剤には主に、腸管からの水分吸収を抑制し、便を軟化させて排便を促す緩下剤と、腸に直接作用し、腸のぜん動運動を亢進させて排便反射を起こさせる大腸刺激下剤の二種類があります。大腸刺激下剤は、大量投与により子宮筋を収縮させる可能性があり、中には添付文書で妊婦さんには原則禁忌である薬剤もあることから、妊娠中は緩下剤が第一選択となります。

 

① 酸化マグネシウム(マグラックス)

マグラックスは腸管内の水分吸収を抑制し、便の水気を増やして軟らかくします。その結果、腸粘膜が刺激されて腸ぜん動が促されるため、スムースに排便できるようになります。

また、酸化マグネシウムは、胃壁を攻撃する胃酸を中和する作用があるため、胃潰瘍や胃炎の治療・予防効果も期待できます。

腎機能に問題がなければ、薬剤に含まれるマグネシウムが体内に吸収され、母体や胎児に悪影響を及ぼすことはほとんどないため、マグラックスは妊婦さんにも比較的安全に使用可能です。

 

② モビコール

モビコールは、規定量の水分と一緒に服用することで、腸管内の水分を増加させる薬剤です。その結果。便中の水分が増加し、便が軟らかくなります。更に、便の容積も増大するため大腸のぜん動運動が活発になることで、排便が促されます。

海外では妊婦さんの便秘の第一選択となっており、当院ではマグラックスの効果が弱い方を中心に使用しています。

 

③ ラキソベロン

ラキソベロンは大腸刺激性下剤ですが、添付文書では妊婦さんの使用が禁忌になっていません。当院では主に、マグラックス単独では効果が薄い方に併用薬として処方しています。

ただし、作用は強力で習慣性があり、腸粘膜の炎症性変化のため吸収障害をきたす可能性や、大量投与により子宮収縮を起こすことがあるため、長期投与は控えています。

 

 

妊娠中の便秘への対応として、このような薬物療法は効果的ですが、できれば便秘の予防あるいは対策として、
① ウォーキングなどの適度な運動
② 線維成分の多い食事の摂取
③ 十分な水分補給
といった生活習慣の改善もあわせて行ないましょう。