院長コラム
当院における産後出血の対応
単胎の経腟分娩の場合、約75%は産後出血量500ml以下の正常範囲ですが、約25%は500mlを越え、産後出血に対する初期対応が必要であるといわれています。また、東京都の母体救命搬送の40%以上は、分娩後の異常出血が理由であるとも報告されています。
このように、産後の出血をいかに少なくするかが、母体にとって非常に大切になります。そのためには自院でできることは確実に行い、それでも出血のコントロールがつかない場合には、時機を逸することなく高次施設へ母体搬送する必要があります。
今回は、当院における産後出血の対応についてお伝え致します。
1. 予防
○ ハイリスク妊婦さんは予め高次施設へ紹介
当院は小さな一次施設であるため、分娩後異常出血のリスクが高い妊婦さん(前置・低置胎盤、巨大子宮筋腫、巨大児など)に対しては、リスクが判明した時点で高次施設への紹介となります。
○出生に合わせて子宮収縮薬を点滴投与
当院で分娩される妊産婦さんほぼ全員に対し、子宮収縮不全による出血を防ぐために、児の娩出時に合わせてオキシトシンという子宮収縮剤を点滴投与します。
○ アイスノンと子宮マッサージ
胎盤娩出後、血圧・心拍を測定し、タオルに巻かれたアイスノンを下腹部に置いて子宮体を冷やします。同時に子宮を輪状にマッサージすることで収縮を促し、子宮内に溜まった凝血塊を取り除きながら出血状況を確認します。
多くの場合、子宮収縮良好で、産後出血も中等量以下ですが、もし子宮収縮が不良であったり、出血が多く止まらない場合は次のステップに移ります。
2. 原因検索と初期対応
○ 初期対応1
血圧・脈拍を定期的に測定し、点滴の速度をアップさせて輸液量を増やすと同時に、出血の原因を探ります。
産道の傷からの出血を認めれば、縫合して止血します。
もし、子宮収縮不良が原因の場合は、点滴投与するオキシトシンの量を増やし、両手で子宮を圧迫します。
○ 初期対応2
それでも出血が収まらない時は、点滴をもう一方の腕に留置し、更に補液量をアップさせ、酸素マスクで酸素を投与します。また、止血剤であるトランサミンを点滴投与または静注します。さらに、尿道カテーテルを留置して尿量を計測します。尚、尿道カテーテル留置し膀胱を空にすることは、子宮収縮を促すことにも繋がります。
上記の処置にもかかわらず、子宮収縮不全が持続する場合は、オキシトシンの投与量を更に増量し、別の子宮収縮剤であるメチルエルゴメトリンを筋肉注射します。
3. 母体搬送の決定と手配
血圧・心拍、意識状態、出血の実測値などから1,000ml以上の出血が考えられ、出血が収まらない時は、母体搬送を決定し、手配を行ないます。
東京都の母体搬送システム「スーパー母体搬送」を利用し、日赤医療センターをはじめ、国立成育医療研究センター、東京医療センター、昭和大学病院、慶応義塾大学病院などへ搬送致します。その際、原則として医師(院長)が同乗し、搬送中の処置に当たります
当院は小さな施設で人手も限られますが、母体救命のセットワークを利用しつつ、最善を尽くします。
産後出血が多くなった時点で、ご本人やご家族に状況を説明しておりますが、ほとんどの場合、具体的な処置の一つひとつを説明し承諾する時間的余裕はありません。一段落付いた時点で説明させて頂くことになる旨、何卒ご了承下さい。