院長コラム

当院における後期早産児への対応 ~妊娠36週未満は母体搬送または新生児搬送~

当院は病床数8床で、産婦人科医1人と助産師だけのこじんまりとしたクリニックです。したがって、当院ではリスクが少ない妊婦さんを対象に分娩を取り扱っていますが、何が急に起こるかがわからないのがお産です。
今回は、妊娠34週以上37週未満の早産(後期早産)に対する当院の対応について、「産婦人科診療ガイドライン 産科編2017」「周産期医学 2019年5月号」などを参考に説明します。

 

 

後期早産児の問題点

妊娠37週未満で生まれた赤ちゃんを早産児といい、妊娠37週以降に生まれた正期産の赤ちゃんと比べて、様々なリスクが高くなります。特に妊娠34週未満の早産児は、新生児科による厳重な管理が必要であり、当院では管理が不可能であるため、周産期センターのある高次施設へ母体搬送となります。

また、妊娠34週から36週まで生まれた赤ちゃんは後期早産児と呼ばれ、正期産に近いこともあり、あまりリスクが高くないと以前は考えられてきました。しかし近年、後期早産児は正期産児と比べると、以下に示す通り、医療的ケアが必要な疾患のリスクが高いことがわかってきました。

○ 呼吸窮迫症候群 :17倍
○ 一過性多呼吸  :5倍
○ 低血糖     :12倍
○ 高ビリルビン血症:5倍
○ 哺乳困難    :2倍

 

 

妊娠34週・35週での早産への対応

後期早産児の中でも妊娠34週・35週の早産児の場合、上記のリスクに加え、RSウイルスに感染すると重症化しやすいといわれています。そのため、呼吸疾患のある小児、RSウイルス流行期(およそ9月~3月)に退院する小児など、リスクがある小児には予防薬(パリビズマブ)の投与が推奨されています。

当院では、予防薬投与を含めて高度な新生児管理ができません。そこで、妊娠35週以下で分娩になりそうな切迫早産の方は、予め高次施設に紹介しています。もし、母児に異常がなく、妊娠36週以降まで妊娠が継続できた場合には、再び当院で分娩管理するようにしています。

また、高次施設で診察を受ける前に陣痛が発来したり、破水が見られた場合は、原則として母体救急搬送致します。もし、すぐに分娩になりそうな場合には、当院で分娩した後、新生児救急搬送となります。

 

 

妊娠36週の早産児への対応

妊娠36週以降で2300kg以上の早産児の場合、前述のリスクに十分注意する必要がありますが、妊娠37週の正期産児と同様の管理が可能なケースも少なくありません。したがって、母児に他のリスクがなければ、妊娠36週の早産であっても、原則として当院で分娩管理させて頂いております。

ただし、呼吸状態、低血糖、高ビリルビン血症などの状態によっては新生児搬送になる可能性がある旨、ご了承下さい。

 

 

当院では院長(新生児蘇生法「一次」コースインストラクター)はじめ、多くの助産師が新生児蘇生法の講習会を定期的に受講し、院内での勉強会や訓練も行なっています。
それでも、周産期センターなどの高次施設での管理が望ましいと判断した場合は、母児の安全を優先し、国立成育医療研究センター、国立病院東京医療センター、日赤医療センター、昭和大学病院、慶応義塾大学病院などへ母体搬送または新生児搬送を行ないます。
尚、搬送先の施設、搬送タイミングについては、当院にご一任頂ける方のみ分娩予約をして頂いております。
つまり、当院では緊急の場合、その場でご本人やご家族に搬送先の病院のご希望を伺ったり、ご承諾を頂くようなこと致しません。
この点、何卒ご了解下さい。