院長コラム

当院における妊婦さん・授乳婦さんの乳がん検査

先日、横浜で開催された「日本産婦人科乳腺医学会学術講演会」に参加して参りました。乳がんの診療や研究に携わっていらっしゃるスペシャリストの先生方から多くの事を教えて頂き、当院での乳房検診を見直す良い機会となりました。
今回は、当院における妊婦さん、授乳婦さんの乳房検査について、学会での学びを交えてお話致します。

 

 

妊婦健診としての乳房検診

妊娠中あるいは出産後1年以内、または授乳中に診断された乳がんを「妊娠関連乳がん」といいます。妊娠3000例に1例発症するといわれており、非常に稀ではありますが、今後晩婚化が進むと、この妊娠関連乳がんは増加すると言われています。また、妊娠期に乳がんと診断されるということは、母と子の二つの命を守らなければいけない、ということであり、いかに早期に乳がんを発見することができるかが、とりわけ大切になってきます。

妊婦さんの乳房スクリーニング検査の方法として、妊娠初期に超音波検査で行なうことが有用である、との講演や発表がありました。スクリーニング検査で乳がんが疑われた場合は、マンモグラフィー(胎児への被曝の影響はほとんどありません)を施行し、細胞診や針生検で診断していきます。

当院では、妊娠12週頃に全員の妊婦さんに対して、乳房の視触診および超音波検査を行なっています。スクリーニング検査で異常所見がない方がほとんどですが、明らかに良性の腫瘤が認められた場合には、引き続き当院で経過観察致します。稀ではありますが、もし精査が望ましいと判断した場合には、近隣のブレストクリニックや高次施設の乳腺科へ紹介しています。

尚、当院では、乳房腫瘍の細胞診・組織診は行なっておらず、精査が必要な場合は早めに乳腺専門医にお願いしております旨、何卒ご了承下さい。

 

 

一か月健診時の乳房検査

産褥期の乳がんの方が妊娠期に比べて、その進行が早いといわれています。当院では、妊娠初期のスクリーニングで異常のなかった方も含めて、褥婦さん全員に視触診および超音波検査を行なっています。ほとんどのお母さんが母乳育児をされているため、一か月健診の時点では、乳線組織が非常に発達しています。そのため、触診だけで乳房の腫瘍も見つけ出すことは非常に困難であり、超音波検査が必要不可欠となります。

また、一か月健診時の乳房検査では、乳がんなどの乳腺腫瘍の有無を確認するだけでなく、化膿性乳腺炎が悪化し、膿瘍を形成していないかどうかの確認も行なっています。もし、広範囲に膿瘍が認められた場合はブレストクリニックへ紹介しますが、あまり大きくない場合には、当院で穿刺・排膿(超音波下で針を刺し、膿を吸引)することもあります。

授乳婦さんの乳房超音波検査でよく見られるのが、乳瘤(母乳の溜り)です。経過とともに縮小・消失することが多いのですが、病的な乳腺腫瘍と紛らわしいものもあるため、数ヵ月ごとの経過観察が必要になることがあります。

 

卒乳後の乳房検診

当院では母乳外来で卒乳指導を行い、患者さんのご希望があれば、卒乳後に乳房超音波検査を行なっております。この時期になると乳腺組織が減少してきており、授乳期に比べて触診や超音波検査で腫瘍を確認しやすくなります。

世田谷区のがん検査事業として、40歳以上の方は偶数になる年齢の年度にマンモグラフィーによる乳がん検査を受けることができます。ただし、卒乳後6か月経過していることが条件であるため、卒乳からあまり経過していない方には自己検診と超音波検査をお勧めします。

 

 

先日の学術講演会で、「Breast awareness(ブレスト・アウェアネス):乳房への意識・気づき」の重要性についてのお話がありました。自己検診というと、乳房のしこりを探し勝ちですが、「ブレスト・アウェアネス」の考え方は少し異なるようです。まず、正常な自分の乳房の状態を意識し、そして、いつもとは違う“何か”を感じ取ることが大切、との事でした。
妊娠期・授乳期は自分の乳房の状態を意識する絶好の機会です。我々も産婦人科医として、乳がん早期発見のお手伝いができれば、と考えています。