院長コラム

女性のフレイルと骨粗鬆症

「フレイル」とは、健康な状態と要介護状態の中間的な段階をいい、生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態です。
フレイルの要因には、加齢に伴う身体的な機能低下による「身体的フレイル」、一人暮らしや経済的困窮などの「社会的フレイル」、そして認知機能障害やうつなどの「精神・心理的フレイル」の3つがあり、それらが相互に負の影響を及ぼし合っています。
今回は第一三共株式会社作製の資料を基に、身体的フレイルの中でも特に女性に多い骨粗鬆症・骨折についてお話します。

 

 

フレイルと転倒・骨折

あるアメリカでの研究によると、高齢女性(65歳以上)において、フレイル群では健康群に比べて、繰り返す転倒の危険度は1.38倍、大腿骨近位部骨折の危険度は1.40倍であったとのことです。

転倒経験者は、自立歩行が可能であるにも関わらず、転倒不安・恐怖から外出を控えるようになります。すると、日常生活動作(ADL)の低下や閉じこもりから、フレイルが引き起こされ、更に転倒・骨折・ADL低下の悪循環に陥り、最終的に寝たきりとなってしまします。

転倒が原因で発生する骨折のうち、大腿骨近位部骨折は最も重い骨折であり、高齢者の寝たきりの原因となります。したがって、その背景にある転倒予防と骨粗鬆症対策が非常に重要です。

 

 

転倒の原因と予防

転倒の原因には、内的要因と外的要因があります。内的要因として、めまい・歩行障害・視力障害・酩酊・夜間頻尿・薬物使用(睡眠薬・向精神薬・抗ヒスタミン薬・降圧剤など)があります。

一方、外的要因としては、滑りやすい床表面・目の粗い絨毯・固定していない障害物・家財道具の不備・照明の不良・戸口の踏み段などがあります。

以上のように転倒のリスク因子は極めて多く、複雑に絡み合っているため、運動介入(バランス訓練・歩行訓練など)および運動以外の介入(食事指導・環境整備・服薬指導など)などの多面的な介入により、転倒を予防する必要があるようです。

 

 

各ライフステージの骨粗鬆症対策

転倒予防と同様、骨粗鬆症予防・治療も非常に重要です。産婦人科の観点で、女性の各ライフステージにおける骨粗鬆症対策を挙げてみます。

○ 思春期・性成熟期

女性の骨量は、女性ホルモン(エストロゲン)が上昇する思春期に急激に増加し、20歳前後位でピークに達します。いかに最大骨量を高くできるかが、将来の健康に関わってきます。
この時期は、バランスのとれた食事を心がけ、適度な運動習慣を身に付けることが、非常に大切です。
極端なダイエットや激しい運動を行なうと、女性ホルモンの分泌が低下することにより骨量が減少しますので、急激に体重が減少しないように注意しましょう。

 

○ 妊娠期・授乳期

妊娠・授乳期は、通常よりも各栄養素の必要摂取量が増えます。特にカルシウム、ビタミンDなど骨代謝に影響を及ぼすミネラル・ビタミンの摂取を心がけましょう。

 

○ 更年期

エストロゲンが減少する更年期になると、骨量が低下していきます。食事内容や運動習慣が重要であることはもちろん、定期的に骨密度を計測することも大切です。もし、骨粗鬆症と診断された場合は薬物療法が必要になりますので、整形外科受診をお勧めします。

また、骨粗鬆症にはなっていなくても骨量減少傾向がみられた場合は、骨粗鬆症予防を始めた方がいいでしょう。もし、閉経前であれば大豆イソフラボンのアプリメントである「エクオール」をお勧めします。閉経後で更年期症状が出現している場合には、ホルモン補充療法を第一選択として検討します。

 

 

寝たきりの予防はフレイル対策にあります。そして、フレイルの予防は思春期から始まります。どの年代の女性にとりましても、食生活・運動習慣は骨粗鬆症予防の基本になりますので、定期的に生活習慣を見直しましょう。