院長コラム
子宮腺筋症の治療
先日、東京大学産婦人科の先生による、子宮腺筋症についてのご講演を拝聴しました。
一般的に、子宮筋腫や子宮内膜症と比べて知名度が低い印象がある「子宮腺筋症」ですが、実は性成熟期の女性にとりまして重大な疾患の一つです。
今回は、講演の内容も含めて、子宮腺筋症の診断や治療について説明します。
子宮腺筋症とは
子宮腺筋症とは、子宮内膜に類似した組織が、何らかの原因で子宮筋層内にできてしまい、女性ホルモン(エストロゲン)の影響で増殖・出血を繰り返す病気です。
子宮全体が大きくなり、月経痛、過多月経、骨盤痛などがみられ、放置すると重症貧血になる可能性もあります。エストロゲンの作用により子宮腺筋症は増悪するため、閉経に伴いエストロゲンの分泌が低下すると、症状が軽減します。
通常子宮腺筋症は、子宮の腫大・子宮筋層の肥厚を確認するため、内診と超音波検査で診断しますが、精査のためMRI検査を行なうこともあります。
子宮腺筋症の治療
(1) 薬物療法
① 対症療法
月経痛や過多月経に対しては鎮痛剤や止血剤を用います。ただし、子宮腺筋症の改善には繋がらないため、あくまでも対症療法として用います。
② 内分泌療法
○ 低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP製剤)
月経困難症で保険適応があるLEP製剤は、子宮内膜組織の増殖を抑える作用があるため、月経量を減少させます。また、子宮内膜組織から分泌されるプロスタグランディンを結果的に減少させるため、月経痛も軽減させます。
当院では、月経回数をも減少させる「ヤーズフレックス錠」や「ジェミーナ錠」による連続投与をお勧めしています。
○ GnRHアゴニスト
人工的にエストロゲンを減少させて閉経状態にすることにより、月経を止め子宮腺筋症自体も小さくさせる治療法です。治療効果は非常に高いですが、長期投与による骨粗鬆症を防ぐため、使用は6か月間までとなっています。
皮下注射と点鼻薬がありますが、当院では主に「リュープロレリン1.88」を4週間に1回皮下注しています(6回まで)。
○ジエノゲスト
ジエノゲストは、子宮内膜組織の増殖を抑制する作用がある黄体ホルモンの一種です。子宮内膜組織に対する直接的な作用だけでなく、卵巣機能を抑制する作用によりエストロゲンの産生を減少させます。主に子宮内膜症治療薬として用いられていますが、子宮腺筋症に対しても効果を発揮します。
尚、初回治療としてジエノゲストを使用すると、稀に大出血をきたすことがあります。その対策として、ジエノゲスト服用の前にGnRHアゴニストを数か月使用し、あらかじめ子宮内膜を薄くしておく方法もあります。
(2) 手術療法
妊娠を望まない場合は子宮全摘術を行ないます。妊娠の可能性を残す場合は、子宮腺筋症の病巣部を切除する方法がありますが、手術を行なっている施設は限られており、当院としては主に東京大学病院へ紹介致します。
尚、ご講演の先生のお話によると、術後は子宮の創部の回復のため、最低6か月は避妊の必要があり、その後は子宮鏡で子宮内膜の状態を確認してから妊娠を許可されるとの事でした。また、子宮破裂のリスクは高くなるため、全例帝王切開となります。
子宮腺筋症の方が妊娠すると、流早産、前置胎盤、胎児発育不全などの周産期リスクが高まります。
月経痛、過多月経を自覚される方は、我慢しないで婦人科を受診しましょう。
子宮腺筋症であれば、まずは薬物療法で治療されることをお勧めします。