院長コラム

子宮筋腫の薬物療法

子宮筋腫とは、子宮筋層にある平滑筋という筋肉の“こぶ”で、女性ホルモン(エストロゲン)の影響で大きくなる良性の腫瘍です。
治療法には手術療法(子宮全摘術、子宮筋腫核出術など)と薬物療法がありますが、今回は薬物療法について説明します。

 

(1) 偽閉経療法:人工的に閉経にする治療

① GnRHアンタゴニスト

ゴナドトロピンというホルモンは脳下垂体から分泌し、卵巣からエストロゲンを分泌させます。ゴナドトロピンは脳の視床下部から分泌されるGnRHというホルモンによって調節されます。

アンタゴニストとは、下垂体へのRnRHの働きかけの邪魔をする薬剤のことです。GnRHの働きかけがないためゴナドトロピンの分泌は抑制され、卵巣からのエストロゲンの分泌も抑制されます。その結果、子宮筋腫は縮小します。

GnRHアンタゴニストであるレルミナは1日1回1錠服用するタイプですが、エストロゲンの分泌低下が長期にわたると、骨密度が低下し骨粗鬆症となり、骨折しやすくなる可能性があります。そのため、原則として6ヵ月までしか投与ができません。

 

② GnRHアゴニスト

アゴニストは、アンタゴニストとは反対に、下垂体を過剰に刺激する薬剤です。そのため、一時的にゴナドトロピンの分泌が増加し、その結果エストロゲンもむしろ増加してしまいます。

しかし、1か月もすると、下垂体の感受性が麻痺し、ゴナドトロピンの分泌が減少します。その結果、エストロゲンも減少するため、子宮筋腫の縮小が期待できます。

尚、GnRHアゴニストには、1か月に1回皮下注射するタイプ(リュープロレリンなど)と、連日点鼻するタイプ(スプレキュアなど)がありますが、これらも原則として6ヵ月までの使用になります。

 

 

(2) 過多月経に対する治療

① 止血剤

過多月経や過長月経が見られるときには、アドナ、トランサミンなどの止血剤を用いることがあります。また、「痔出血」に保険適応があるキュウ帰膠艾湯という漢方薬は、過多月経に対する止血効果も報告されています。

 

② 貧血治療薬

鉄欠乏性貧血がみられる時は、鉄剤(フェルムなど)を処方します。ふらつきを認める場合や鉄剤による副作用(胃痛、嘔気、便秘など)が強い場合には、人参様栄養という漢方薬を使用することがあります。

 

 

(3) 月経痛に対する治療

① 鎮痛剤

痛み物質であるプロスタグランディンという物質は、子宮を収縮させる働きもあります。通常、月経痛に対する薬物療法は、プロスタグランディンを抑制する鎮痛剤(ロキソニン、ボルタレン、カロナールなど)や筋肉の収縮を抑制する鎮痙剤(ブスコパン、芍薬甘草湯など)を用います。これらの薬剤は他の治療と併用することも可能であり、月経開始前から服用すると、より効果的です。

 

② IUS:黄体ホルンモン放出子宮内システム(ミレーナ)

高濃度の黄体ホルモンを放出する器具で、子宮内に留置します。黄体ホルモンは子宮内膜の増殖を抑制する作用があるため、高濃度の黄体ホルモンが持続的に分泌されると、内膜が菲薄化します。その結果、経血量が減少するだけでなく、プロスタグランディンも減少するため、疼痛が軽減します。

 

 

患者さんの症状や子宮筋腫の状態より治療法を決定します。
当院では薬物療法を行なっておりますが、もし手術療法が必要な場合は近隣の高次施設へ紹介致します。
過多月経・過長月経などの月経症状を認める方や人間ドックなどで子宮筋腫を指摘された方は、是非婦人科を受診して下さい。