院長コラム

妊娠適齢期とは

40代や50代の女性タレントや著名人の妊娠報道を聞いて、「高齢になっても普通に妊娠できるんだ」と甘く考えてしまう方がいらっしゃいます。
今回は、加齢が妊娠に与えるリスクについて、「女と男のディクショナリー HUMAN+」(日本産科婦人科学会編著)を基に説明したいと思います。

 

 

女性の一生と卵子の数

妊娠(胎生)6か月の胎児の段階で、卵子を入れる卵胞は700万個ほどに増加します。しかし、その後は次第に減少し、出生時には約200万個になります。更にその後も減少を続け、思春期つまり月経が始まる頃には、約20~30万個程までに減ってしまいます。そこからは閉経に向かって減少を続けます。

つまり卵子は、妊娠(胎生)6か月までに一生分の全てが作られ、その後は一度も増えることなく、時間とともに、年を重ねるごとにどんどん失われていきます。

月経が10歳から50歳頃まであり、毎月排卵があった場合、生涯で480個前後の卵が排卵される計算になります。しかし、これは初経の頃の卵子数のたった1%以下に過ぎません。残りの99%以上の卵子は、卵巣内でただただ静かに消滅していく運命です。

 

 

妊娠適齢期

卵巣内で排卵という出番を待っている卵胞は、声がかかるまで眠り続けます。しかし、この卵子は35歳を過ぎたあたりから、老化し、染色体や遺伝子に異常が起こりやすくなります。

また、排卵に向けて、複数の卵子が起こされますが、通常その中から1個の卵子のみが選ばれ、排卵することになります。排卵前に起こされる卵子は、若いときほど多く、高齢になるに従って少なくなります。

つまり、高齢になると、そもそも老化した卵子が、大して競争をしないで排卵してしまうため、精子と受精することが困難になります。受精したとしても、染色体異常が発生しやすくなり、もし妊娠が成立したとしても、流産率が高くなります。残念ながら40歳では20~30%、45歳では30~50%の女性が流産になると言われています。

妊娠が継続しても、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの合併症は、母体の加齢とともにリスクが高まり、難産や帝王切開も増加します。

また、加齢とともに子宮頚部異形成、子宮筋腫、子宮内膜症といった婦人科疾患に罹患する女性が増えるため、不妊、早流産、分娩時の大量出血などのトラブルに見舞われる可能性も高まります。

以上を総合的に考えると、およそ35歳までが妊娠適齢期といえるでしょう。

 

 

妊娠を考えた人生設計

妊娠時期を漠然と考えていると、「妊娠したい時には、すでに妊娠しづらくなってしまった」という事態に陥る可能性があります。人の価値観はそれぞれですが、妊娠・分娩を第一優先に考えるならば、「妊娠適齢期の35歳頃までに妊娠する」という考えは、人生設計の中核になると思います。

特に、高血圧や糖尿病、自己免疫疾患などの内科的合併症や子宮筋腫、子宮内膜症、子宮頚部異形成などの婦人科合併症を抱えている女性の場合、パートナーだけでなく、かかりつけ医とも妊娠を考えた人生設計を相談する必要があります

 

 

人生100年時代に入りますが、これからも閉経年齢は50歳前後で変わらないでしょうし、生まれながらに持っている卵子の数が増えることもないでしょう。
「妊娠を考える」とは、「人生を考える」ことに他なりません。正しい情報を冷静に見つめ、パートナーとよく相談することが、悔いの少ない人生設計を作るためには必要だと思います。