院長コラム

女性のライフサイクルと性感染症

現在、世界で毎日100万人以上の人が、何らかの性感染症にかかっているといわれています。わが国でも梅毒の増加が問題になっており、当院でも日々性感染症の診察・治療を行なっています。
本日は、日本医師会雑誌2018年3月号から「Women’s healthと性感染症」の記事を参考に、女性のライフサイクルと性感染症について説明します。

 

 

性感染症とは

性感染症とは性行為によって感染・伝播しうる感染症と定義され、細菌、ウイルス、真菌、寄生虫などの病原体が性器、肛門、後区粘膜などに接触することで感染します。

わが国で発生動向が調査されている性感染症は、性器クラミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、梅毒、HIV感染症/AIDSの6種類で、全てが増加傾向にあります。

 

 

思春期の性活動

高校生の性交経験率は男子で約15%、女子で約24%ですが、大学生になると男性で約54%、女性で約47%に上昇します。
ただし、約半数は常にコンドームをするとは限らず、オーラルセックス時にいたっては、コンドーム使用率約6%と極めて低いといわれています。

6種類性感染症の中では性器クラミジア感染症が圧倒的に多く、わが国の高校生を対象とした無症候性クラミジア感染症の調査では、男子高校生が約7%、女子高校生では約13%が感染者であり、年齢別の罹患率は、16歳の女子が約17%で最多であったそうです。

コンドームを適切に装着していれば性感染症にかかるリスクはかなり軽減します。たしかに、コンドームで覆われていない部分の皮膚に小さな傷があれば感染の可能性はありますが、性行為(オーラルセックス時もアナルセックス時も)は必ずコンドームを使用することが“常識”であることを若い世代に伝える必要があります。

 

 

性成熟期・妊娠中の性感染症

性器クラミジアは自覚症状がないことが多いため、知らず知らずのうちに感染源となり、感染を広めている可能性があります。
性成熟女性が性器クラミジアを放置すると、骨盤腹膜炎や卵管炎などをきたし、不妊症や卵管妊娠(子宮外妊娠)の原因になります。
もし妊婦さんが罹患しており、適切な治療をしていない場合、新生児のクラミジア肺炎やクラミジア結膜炎を発症する可能性があります。

性器ヘルペス、尖圭コンジローマも分娩時の産道感染する恐れがあるため、妊娠中の検査、治療はもちろん、場合によっては帝王切開が必要になってきます。

また、梅毒の場合は胎内感染をおこすため、妊娠初期のスクリーニングで診断がついた時点で薬物療法を行ないます。適切に治療しないと胎児死亡や新生児が先天梅毒を発症する可能性があります。

 

 

中高年の性感染症

閉経後、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が低下することで、腟内の自浄作用が弱くなり、腟内は非常に感染しやすい状況になります。また、全身の免疫力が低下することも少なくないため、性器ヘルペスの既往がある方の場合、神経に潜んでいたヘルペスウイルスが活発になり、再発することがあります。

 

 

女性は一生を通じて、性感染症のリスクから完全に逃れることはできません。
中でも思春期女子と妊娠前女性は、性感染症に対する危機意識を強く持たないといけません。
今後は我々も、性感染症に関する情報をもっと積極的に提供しなくてはならない、と考えています。