院長コラム
妊娠中にHTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス)スクリーニング検査で陽性となったら
妊娠中、様々な血液検査を行いますが、HTLV-1スクリーニング検査もその一つで、当院では妊娠24週頃に行います。
今回はこの検査の意義と陽性になった時の対応について説明します。
HTLV-1とは
HTLV-1は成人T細胞性白血病(ATL)などの原因ウイルスです。ATLはHTLV-1に感染後、40年以上経過してから発症します。
症状は免疫力の低下、リンパ節の腫れ、臓器や皮膚の病変、高カルシウム血症など多岐にわたります。
ただし、HTLV-1に感染した人が生涯にATLを発症する確率は3~7%で、40歳以上の感染者750~2,000人中1人が発症する程度といわれています。
感染経路は
性交による感染(主に男性から女性)、輸血や臓器移植などによる血液の移入もありますが、ほとんどが母子感染、特に母乳を介して母親から子どもに感染するケースが大多数といわれています。
スクリーニング検査で陽性の場合
もし、スクリーニング検査で陽性であった場合、本当の感染であるかどうかを確認するため、ウェスタンブロット法という確認検査が行われます。
精査により陽性、つまり感染が確認されるのは約10%ですが、確認検査でも陽性か陰性か判定できない“判定保留”が10~20%あるともいわれており、その場合は更にPCR法という精査が行われることがあります。
精査で陽性の場合
精査にてHTLV-1感染が明らかになった場合は、母子感染を予防することが大切になります。
長期母乳栄養による感染率が20%との報告があり、母乳による母児感染を防ぐため、以下の3つの方法が推奨されています。
1) 人工栄養
ウイルス感染されたリンパ球は母乳にも存在しております。したがって、すべて人工栄養を使用することで、ウイルス感染された母乳が児の口に入ることがないため、最も確実な哺乳方法です。
ただし、人工栄養を用いても母子感染率は3~6%あるといわれており、子宮内感染や産道感染は防止できないのが現状です。
2) 凍結母乳栄養
搾乳した母乳を一旦冷凍(-20度、12時間)した後に解凍して与える方法で、感染リンパ球が不活化されるために予防効果が期待できます。
ただし、最近の冷凍庫は食材のおいしさを保つ冷凍法が主流であり、リンパ球が死滅しないため不適切ともいわれています。
3) 3ヶ月以内の母乳哺育
母乳栄養の利点を考慮して、母体からの抗体が母乳中に存在する短期間だけ母乳栄養を行い、その後は人工栄養を選択する方法です。
ただし、理論的に確実である保障はなく、完全な人工栄養の群と比べて、母児感染率が高いとの報告もあります。
上記の方法を行ったとしても、確実に母児感染を防ぐことは非常に困難です。
当院では原則として完全人工栄養を推奨していますが、最終的にはご本人とご相談して決定します。
尚、母児の将来を考え、出産後は高次施設の血液内科へご紹介することがあります。