院長コラム

産前・産後の鉄欠乏性貧血への対応

貧血には、葉酸欠乏性貧血、ビタミンB12欠乏貧血、再生不良性貧血や白血病など多くの種類があります。
今回は、妊娠期、産褥期に多い、鉄欠乏性貧血の予防法と治療法についてお話致します。

 

 

妊娠中の貧血

妊娠後半期には、母体の血液中の水分が40~50%も増えるため、結果的に水で薄まった状態となり、見かけ上の貧血になります。

つまり、適度な貧血になることは生理的なことであり、実は胎児発育にとって、むしろ望ましいと言われています。

一般に血液中のヘモグロビン値が11.0 g/dl未満であると貧血と診断されますが、最も貧血になりやすい妊娠30週前後のガイドラインでの目標値は、軽度貧血である9.6~10.5 g/dlに設定されています。

 

 

妊娠中の貧血の治療

血液検査の結果、ヘモグロビン値は9.5 g/dl 以下となるような鉄欠乏性貧血と診断されれば、その治療は鉄剤の投与が中心となります。

当院では「フェルムカプセル100mg」を1日1カプセル処方することが多く、副作用で胃痛や便秘を認める方には健胃剤・下剤を一緒に処方します。

ちなみに、鉄剤の内服の際に、紅茶、コーヒー、緑茶と一緒に飲むと、それらに多く含まれるタンニンの影響で鉄分の吸収が阻害されます。必ず水または白湯で薬を飲むようにしましょう。

 

 

産褥の貧血の治療

分娩時出血により、産褥に貧血をきたす方も少なくありません。当院では、原則産褥2日目に貧血検査を行いますが、ヘモグロビン値が10g/dl未満の方には「フェルムカプセル100mg」を処方します。

より貧血が強ければ、静注用鉄剤の「フェジン」を退院日まで連日投与することもあります。

また、ふらつきなどがあれば漢方薬「人参養栄湯」を1-2週間服用して頂く事もあります。

尚、分娩時出血が多い時は、分娩直後から鉄剤の静注や内服を開始します。

また、貧血治療を開始した方には、入院食は貧血食(治療食)のご提供になります旨、ご了承下さい。

 

 

食事の注意

上記のような薬物療法だけでなく、食事療法も大切です。
鉄の含有量の多い食品と鉄の吸収を促進する食品をバランスよく摂取することが必要となります。

鉄を多く含む食品としては、ウナギ、レバー、あゆ、ひじき、ほうれん草などがあります。また、鉄の吸収を促進する成分として、ビタミンCや蛋白質が知られています。

したがって、緑黄色野菜、豆製品、卵、魚介・肉類など、バランスのとれた食事を心がけましょう。

 

血液検査結果や自覚症状に応じて鉄剤や漢方薬を用いますが、日頃からの食生活が一番大切です。