院長コラム
女性アスリートの三主徴
先日、玉川産婦人科医会主催の学術講演会におきまして、女性アスリートヘルスケアについてのご講演がありました。演者の先生は、その分野の第一人者の先生であり、ご自身も長く水泳をされており、大変興味深いお話を伺いました。
今回は、その講演の内容と東大病院が作成したテキストなどを参考に、女性アスリートが最も注意しないといけない3主徴について説明します。
女性アスリートの三主徴とは
女性アスリートの健康問題は、国際的に大きな問題となっています。特に、摂食障害の有無によらない利用可能エネルギー不足・視床下部性無月経・骨粗鬆症の三つを“女性アスリートの三主徴”として、注意を呼びかけています。
この三つの疾患は独立して存在しているのではなく、それぞれが関連しており、三主徴の始まりは、“利用可能エネルギー不足”といわれています。
利用可能エネルギー不足の目安
利用可能エネルギー不足とは、運動によるエネルギー消費量に見合った食事からのエネルギー摂取量が、確保されていない状態を指します。
しかし、実際にエネルギー摂取量と消費量を評価することは困難であり、アメリカスポーツ医学会では、使用可能エネルギー不足の第一男化のスクリーニングとして、「成人ではBMI(体重[kg]÷身長[m]÷身長[m])が17.5以下、思春期では標準体重の85%以下」を用いて評価しています。
日本のデータでも、やせの基準であるBMI18.5未満になると、無月経の頻度が増加しますが、17.5以下ではさらに急増します。
視床下部性無月経への流れ
無月経の種類には、中枢性無月経、卵相違機能低下、多のう胞卵巣症候群、高プロラクチン血症などがあります。利用可能エネルギー不足による無月経は中枢性無月経である視床下部性無月経といわれています。
利用可能エネルギー不足が長期間持続すると、脳下垂体から分泌される黄体化ホルモン(LH)の分泌が減少します。LHは成熟した卵胞を排卵させる働きがあるため、LHの減少が続くと排卵しなくなり、月経が不順になります。
また、同じく脳下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌も低下します。FSHは卵胞を発育させる作用があり、発育した卵胞からエストロゲンという卵胞ホルモンが分泌します。つまり、FSHの分泌が減少すると、エストロゲンの分泌も低下します。エストロゲンには内膜を肥厚させる作用があり、妊娠していないときは、エストロゲンが急激に減少します。その際、肥厚した内膜が剥がれ落ちて出血しますが、これを月経といいます。
もし、エストロゲンの分泌が低下したまま持続すれば、内膜も薄いままとなり、月経がおきません。この段階で利用可能エネルギー不足が改善されなければ無月経(3ヵ月以上月経がない状態)になります。
骨粗鬆症の原因
利用可能エネルギー不足が続くと低体重となります。骨はある程度の負荷がかからないと強くならないため、低体重が続くと骨密度が低下します。また、摂取エネルギーが少ない方は、カルシウム、ビタミンD、ビタミンKといった骨代謝に必要な栄養素の摂取も少ないため、骨量減少に拍車がかかります。
また、エストロゲンは骨量を増やす作用があるため、エストロゲン分泌の低下が続くと、骨密度が減少し、いずれ骨粗しょう症となり、骨折しやすくなります。
以上のように「女性アスリートの三主徴」は
大きなトラブルに発展する可能性があるため、早めの対策が必要です。
BMTが18.5を下回ったら、あるいは基礎体温で排卵がみられなかったら、または月経が2か月以上こなかったら、是非婦人科を受診して下さい。
当院では、必要に応じて各種ホルモン検査(血液検査)、骨密度計測(踵の骨の超音波法)を行ないます。