院長コラム

多のう胞性卵巣症候群(POCS)と診断された方へ

月経不順や挙児希望で婦人科を受診され、問診、超音波検査、血液検査で多のう胞性卵巣症候群(PCOS:polycystic ovary syndrome)と診断された方もいらっしゃるかもしれません。
今回はPCOSについて説明します。

 

 

PCOSの診断基準

PCOSとは、卵巣の多のう胞性腫大と月経異常を伴う疾患で、生殖年齢女性の5~8%に発症し、多毛、肥満を伴うことがあります。
診断基準は、次の3つの条件すべてを満たす必要があります。

(1)無月経(3ヶ月以上の月経停止)、希発月経(月経周期が39日以上)、無排卵周期症(月経はあるが排卵がなく、基礎体温は一相性)といった月経異常

(2)超音波検査による両側卵巣の多数の小卵胞:数珠やネックレスのように見えます。

(3)ホルモン検査による男性ホルモン高値またはLH(黄体化ホルモン)高値かつFSH(卵胞刺激ホルモン)正常

 

 

PCOSの治療:挙児希望のない方

挙児希望がない場合で、肥満(BMI:体重〔kg〕÷身長〔m〕÷身長〔m〕>25)の方に対しては、食事療法・運動療法による減量が第1選択となります。肥満の改善のみで排卵が順調になる場合も多く、2~6ヶ月で5~10%の体重減少を目標とします。

肥満でない方あるいは体重減少後も無排卵の方の場合、定期的に出血を起こさせるようなホルモン治療を行います。

POCSでは卵胞ホルモンが持続的に分泌されており、その影響で子宮内膜が過形成となるため、子宮内膜増殖症や子宮内膜がんに移行する可能性があります。そのため、黄体ホルモン剤や低用量ピルといったホルモン剤を用いて定期的に内膜を除去し、子宮内膜がんを予防することが大切です。当院では、約1~3ヶ月ごとの出血を起こさせる様にしています。

 

 

PCOSの治療:挙児希望がある方

挙児希望のある方も、肥満の方には減量が第1選択となります。卵巣機能の改善だけでなく、妊娠後も妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの合併症や分娩時のトラブルを抑制することも期待できます。

肥満でない方や減量でも排卵しない方には、積極的にクロミフェンという薬剤を用いた排卵誘発を行います。ただし、頚管粘液分泌の減少や子宮内膜の菲薄など、妊娠に対して不利となることがあるため、当院では4周期前後を目安とします。それでも妊娠されない方には、不妊専門のクリニックをご紹介します。

 

 

中高年とPCOS

PCOSについて注意すべき病態として、インスリン抵抗性があります。インスリンは血糖を低下させるホルモンで、インスリン抵抗性が高くなるとは、その働きが相対的に低下し高血糖になるということです。

PCOSの方は将来糖尿病やメタボリックシンドロームになることがあるため、閉経期以降も長期にわたり健康管理が必要です。

 

 

PCOSは思春期から高齢に至るまで、女性の生涯を通じて様々な影響を及ぼす疾患です。
しかし、運動・食事・睡眠といった生活習慣の見直しで改善することも少なくありません。
内科的・婦人科的定期検診を受けると同時に生活習慣にも気を配るようにしましょう。