院長コラム

人工妊娠中絶手術後は確実な避妊を

当院では、妊娠の継続が母体の健康を著しく損ねることが予想される方に限り、母体保護法に基づいて人工妊娠中絶手術を行なっています。
今回は、中絶手術を繰り返さないための避妊について、当院における対応を説明します。

 

 

妊娠12週未満の中絶手術後

○ 避妊目的のみの方

通常は低用量ピル(OC:ラベルフィーユなど)を用います。OCを継続的に服用すると排卵が抑えられますので、精子と卵子が受精することはありません。もし、排卵してしまい受精したとしても、OCの作用で子宮内膜が菲薄化するため、受精卵は子宮内膜に着床しづらくなります。また、OCの影響で子宮頚管粘液の性質が変化するため、そもそも精子が子宮内に入ること自体が難しくなります。以上3つの作用により、OCによる避妊効果は非常に高いです(理想的な使用で避妊率99.7%)。

OCの服用開始時期に関してですが、今まで当院では、中絶手術1週間後の診察で異常がないことを確認してから、服用を開始していました。しかし、より確実に避妊して頂くために、今後は手術当日の夕食後から服用して頂くように致します。

尚、OCは3週間実薬(ホルモンが入っている錠剤)を服用後、1週間休薬または偽薬(プラセボ:ホルモン成分が含まれない錠剤)を服用して頂きます。その結果、4週間に一度、月経様の出血を認めることになります。

 

○ 月経困難症の治療と避妊を兼ねる方

妊娠する前に月経痛を認めていた場合、避妊だけでなく月経困難症の治療として、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP製)を処方します。月経痛の原因の一つに、子宮内膜で産生されるプロスタグランディンという物質があります。これは、痛みの物質であり、子宮の緊張を引き起こす物質です。したがって、子宮内膜が薄くなればプロスタグランディンの量も減るため、月経痛は緩和されます。尚、LEP製剤の避妊作用・効果、服用方法はOCと同じであす。

LEP製剤の種類は、ヤーズフレックスやジェミーナといった連続投与の薬剤を当院では第一選択としていますが、月に1回の月経様出血を望まれる方には、ヤーズ錠(24日間実薬+4日間偽薬)、ルナベルULD錠(21日間実薬+7日間休薬)を使用することがあります。

LEPが禁忌の方やホルモン剤服用で嘔気・頭痛などの副作用が強い方に対しては、黄体ホルモン放出子宮内システム(IUS)を手術直後に挿入します。今までは、IUSの自然脱出の可能性を考えて、術後に月経を1回終えてから挿入していました。しかし、術直後でも自然脱出などのリスクは高くならないとの報告があり、今後は静脈麻酔から覚醒する前、つまりまだ術後眠っている間に、IUSを挿入することに致しました。

IUSの作用ですが、子宮内膜組織の増殖を抑制する働きがある黄体ホルモンを、高濃度、長期間、持続的に子宮内膜に放出します。その結果、子宮内膜は薄くなり、受精卵の着床が妨げられます。あくまでも子宮内の局所的な作用であり、排卵を抑えることはありませんが、避妊効果はOCやLEPと比べても、引けを取りません。

尚、月経困難症でLEPあるいはIUSを使用する場合は(IUSの場合は過多月経の場合も)、保険診療が可能となります。

 

 

妊娠12週以降、22週未満の中期中絶後

OC、LEP、IUSの使い分けについては、妊娠12週未満の方と同じですが、IUSの挿入時期に関しては少し異なります。中期中絶の場合、術直後に挿入するとIUSの自然脱出の頻度が高まるといわれているため、初回の月経後に挿入しています。その場合、手術直後から避妊効果を発揮させるため、手術翌日からOCまたはLEPを1か月服用し、その後IUSを挿入するという方法もあります。

 

 

人工妊娠中絶手術は比較的短時間で終わる手術ですが、必ずしも安全な手術であるとは言えません。特に、複数回手術を受けると、不妊症や癒着胎盤などリスクが高まる可能性があります。
可能な限り、子宮に負担のかかる人工妊娠中絶を繰り返さないなめには、手術直後から確実な避妊法を実践する必要があります。
OC・LEPを服用している方は飲み忘れないように、IUSを挿入された方は定期検診を忘れないようにしましょう。