院長コラム

世田谷区で麻疹(はしか)患者さんが発生 ~正月休み後・連休後の流行に注意~

先日、世田谷保健所から、世田谷区内で2名麻疹患者さんが発生された、との情報提供がありました。今年に入り都内でも他に5名発生しており、全国的にも年末年始に海外に行った際に麻疹に感染した患者さん、そしてその患者さんから感染した二次感染の方が報告されています。
現時点では世田谷区周辺での広がりは確認されていませんが、正月休みや成人の日の連休が終わったこの時期、麻疹流行の恐れがあります。
特に、麻疹の抗体を持っていない妊婦さん、そしてそのご家族の方は注意が必要です。
今回は麻疹について、情報を共有します。

 

 

麻疹の感染経路と感染可能期間

麻疹は麻疹ウイルスにより引き起こされ、空気感染、飛沫感染、接触感染、そして経胎盤感染など様々な感染経路があります。感染力は極めて強く、抗体を持たない人が麻疹ウイルスに接すると、約90%が感染するといわれています。

潜伏期間は8~12日間、平均は10日間で、感染の可能性がある期間は、感染して約7日目から、発疹が色素沈着に至る約18日目までです。つまり、症状が現れる前から感染する可能性があるため、家族間や集団での感染拡大が生じやすいといわれています。

 

 

麻疹の症状と合併症

○ 典型的な経過

① 前駆期(カタル期)

発熱、全身倦怠感、食欲低下、咳・鼻汁などが2~3日続いたあと、両側の頬の粘膜に特徴的な小斑点(コプリック斑)が出現します。この時期の感染力が最も強いといわれています。

② 発疹期

発熱がやや低下した後、半日ほどで再び高熱となり、特有の発疹が耳後ろから出現し始め、翌日には顔面、体幹部、上腕に、2日後には四肢末端にまで広がります。

③ 回復期

症状が出現し7~10日後から回復期に入り、解熱し、全身状態が改善し、発疹が色素沈着して終息します。

 

○ 合併症

① 肺炎

最も多い合併症で、肺で麻疹ウイルスが持続感染した場合、予後不良で死亡する例も多いと言われています。

② 脳炎

麻疹脳炎は2歳以上に多く、発疹出現後2週間以内に発症すること多いようです。発症率は約1000名に1名で、約60%は回復しますが、20~40%は後遺症を残し、死亡率は約15%です。

 

 

妊婦さんの麻疹感染

成人の麻疹は悪化しやすく、妊婦さんは更に重症化します。30~40%が流早産に至り、早産の90%は母体の発疹出現2週間以内に発生します。また、催奇形性は否定的ですが、子宮内胎児死亡となる可能性はあります。

麻疹ウイルスは経胎盤感染をするため、出生後10日以内に発疹が出現した場合は先天性麻疹と定義され、成熟児に比べ早産例は重症になる可能性があります。

一番の麻疹予防はワクチン接種ですが、麻疹ワクチンは生ワクチンであるため、妊婦さんに接種することはできません。したがって、できるだけ妊娠中は人混みを避ける、といった生活上の注意が麻疹予防のポイントです。

 

 

風疹の場合、妊娠20週まで注意すれば、それ以降の感染ではほとんど胎児への影響はありませんが、麻疹の場合は、妊娠初期から分娩時に至るまでの全妊娠期間を通じて、感染による母児への影響が常に懸念されます。
麻疹の抗体がない妊婦さんは、できるだけ飛行機の利用を避け、空港には行かず、海外、特に東南アジアから帰国した人とは接触せず、コンサートやライブなど不特定多数が集まる会場には行かないようにしましょう。また、ニュースなどで麻疹流行が報道されたエリアには、できるだけ近づかないように願います。
そして、分娩後はMRワクチン(麻疹風疹ワクチン)を接種するよう、お願い致します。授乳中でも接種可能です。