院長コラム

不眠と睡眠薬

先日、医師会の勉強会におきまして、関東中央病院メンタルヘルスセンターの先生から「不眠とメンタルヘルス不調」との演題でご講演がありました。
今回は、そこでの学びを中心に、不眠と睡眠薬について情報を共有したいと思います。

 

 

睡眠の種類  ~レム睡眠とノンレム睡眠~

睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠の二種類があることをご存知の方も多いかも知れません。レム睡眠のレム(REM)とは、「Rapid Eye Movement」の略で、レム睡眠とは、眼がキョロキョロ動いて、脳がある程度活動しており、身体は筋肉が緩んで、しっかり休んでいる(動けない)状態をいいます。つまり「身体のお休み」です。

一方、ノンレム睡眠とは、眼は動かず、脳はしっかり休んでおり、身体は動く状態をいいます。つまり「脳のお休み」です。

寝入ると、まず深いノンレム睡眠(脳のお休み)に入り、徐々に浅くなってレム睡眠(身体のお休み)が出現します。ノンレム睡眠とレム睡眠は約90分のサイクルで繰り返し、レム睡眠は全睡眠の15~20%といわれています。ちなみに、レム睡眠の時に夢を見るといわれており、高齢者はレム睡眠の時間が短く、あまり夢を見なくなるそうです。

 

 

睡眠のパターンとホルモン

睡眠パターンには、1日1回の睡眠型(単相性睡眠)と1日に何回も寝る型(多相性睡眠)があります。ヒトは通常単相性で、ネコは多相性ですが、ヒトでも乳幼児と老年期は多相性になります。

成長ホルモンは身体の疲労回復に重要な役割を担うホルモンですが、睡眠中にたくさん分泌されることが知られています。また、エストロゲンなどの女性ホルモンも睡眠中に増加するため、美容にも睡眠は重要です。

また、不眠や睡眠不足になると食欲増進ホルモン(グレリン)が増加し、食欲抑制ホルモン(レプチン)が減少するため、睡眠不足は肥満・メタボリックシンドロームの原因にもなります。

 

 

主な睡眠薬の分類と注意

睡眠薬には、その作用時間から、超短時間作用型、短時間作用型、中時間作用型、長時間作用型の4つに分類されます。寝つきが悪い「入眠困難」の方には超短時間作用型、「入眠困難」と途中で目が醒めてしまう「中途覚醒」の両方を認める方には短時間作用型を用います。

単に入眠困難な方には超短時間作用型の「マイスリー」を使用することが多いですが、不安な気持ちがあって寝つきが悪い方には、抗不安作用がある「ハルシオン」を処方することがあります。また、「入眠困難」と「中途覚醒」の両方を訴える方に対して、当院では短時間作用型の「レンドルミン」を使用しています。

尚、超短時間作用型も短時間作用型も筋弛緩作用が強く、ふらつき、転倒などを引き起こす可能性が高いため、ハルシオン、マイスリー、レンドルミンを高齢者が服用する場合は注意が必要です。

 

 

妊婦・授乳婦と睡眠薬

わが国で通常用いられている睡眠薬は、ほとんど胎児に悪影響を及ぼすことがないため、妊婦さんが睡眠薬を服用すること自体は問題ありません。ただし、妊婦さんに対する薬物療法は「必要にして最小限」が原則であるため、妊娠していない方と同じように睡眠薬を服薬することは通常致しません。

当院としては、妊娠中の中途覚醒は生理的なものであり、日中ある程度睡眠できている場合には、あまり睡眠薬を処方していません。ただし、不安感が強く、入眠困難がつらい方には、「ハルシオン」、「マイスリー」を使用することがあります。

授乳婦さんに対しても、当院ではあまり積極的に睡眠薬は処方していません。疲労感が強い方には、人参養栄湯や補中益気湯などの漢方薬で経過観察します。それでも、睡眠不足による疲労が改善せず、不安感や抑うつ傾向が増強する場合には睡眠薬の処方を考慮します。ちなみに、添付文書にあるように母乳を中止することはせず、原則として睡眠薬を服用していても母乳哺育を継続して参ります。

 

 

良質な睡眠は、心身の健康にとって欠かせません。
不眠による体調不良があれば、適切な睡眠薬を服用することで健康が維持・増進されます。妊婦さんも、妊娠してない方も、ご相談下さい。
必要に応じて、関東中央病院メンタルヘルスセンターなどメンタルクリニックへの紹介も致します。