院長コラム

「日本女性心身医学会学術集会」のご報告

先日、私が所属しています日本女性心身医学会の学術集会が2日間にわたり開催されました。
今回の学術集会のテーマは「女性のライフ・スタイルを意識した治療戦略」で、女性心身医療のスペシャリストの先生方の講演を拝聴でき、大変勉強になりました。
今回はその一部を情報共有したいと思います。

 

 

妊娠・授乳中の薬の使い方

国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」の先生によるご講演は、妊娠や授乳中の薬剤使用、特に精神科系の薬剤使用に不安感をお持ちの方が多いというお話でした。

妊娠中の薬剤の安全性を考える際、流産と先天異常の自然発生率(それぞれ約15%、3%)を考慮する必要があり、薬物が原因と思われる奇形は1%以下で、ほとんどの薬剤は自然発生率を増加させるものではない、ということです。

しかし、慢性疾患を抱えた女性が妊娠前から薬物でコントロールしていたのにも関わらず、妊娠をきっかけに自己判断で休薬してしまい、原病が悪化するケースも稀ではありません。できるだけ妊婦さんに対して、薬物の胎児に与える影響を説明し、ご納得の上で原病の治療を継続して頂くことが必要であると、改めて認識しました。

授乳中の薬物療法についても、薬物が母乳を介して赤ちゃんに移行し影響を及ぼす可能性と母乳栄養のメリットを考えて、柔軟に対応するべきだ、とのお話もありました。

 

 

食事・栄養学的および運動の側面からの女性メンタルヘルス

うつ病に関する食事・栄養学的側面について、国立精神・神経医療研究センターの精神科の先生からお話を伺いました。

うつ病の方は標準体格の人は少なく、肥満の方またはやせの方が多いとの事です。また、朝食を食べない方、夜食や間食をとる人が多いという研究報告もあるそうです。

特に若い女性は鉄欠乏性貧血の頻度が高く、うつ病やストレス症状のリスクと関連しているとの事です。他にも、n-3系多価不飽和脂肪酸(魚介類や海藻類に多い)、葉酸・ビタミンDなどのビタミン、鉄、亜鉛、カルシウム、マグネシウムなどのミネラルの不足もうつ病と関連しているとの事です。

また、運動習慣(1日30分以上、週2回以上、1年以上)がある方は、そうでない方と比べてうつ病の有病率は低く、うつ病の患者さんに対する運動療法は有効であるとのお話もありした。

うつ病の予防や改善のためにも、バランスの取れた食事や運動習慣が非常に大切である、ということを再確認致しました。

 

 

マインドフルネスで改善する女性のメンタルヘルス

慶応義塾大学ストレス研究センターの先生からは、マインドフルネスの有用性についてのお話がありました。

現代女性は、仕事、家事や育児、親の介護、地域やママ友とのお付き合いなど、マルチタスクで対応しているため、大変なストレスを抱えているとの事です。ストレスが大きくなると、脳の扁桃体という部分の働きが強くなり、論理的思考を司る前頭前野という部分の働きが弱くなって、冷静に問題解決ができなくなってしまうそうです。

マインドフルネスとは、「今、ここを意識すること」であり、「今」の感覚(五感)に注意することで扁桃体の働きが抑えられ、ストレスを緩和することが可能になるそうです。

 

 

このほかにも、就労や子育てと摂食障害の問題や周産期におけるメンタルヘルスのお話など、大変重要な講演を聴くことができました。
我々は地域の産婦人科医院として、精神科の先生、栄養士や心理士の方など多職種の方々と連携を取りつつ、患者さんのライススタイルを考慮しながらメンタルをサポートしなければならない、との思いを新たにしました。