院長コラム

産婦人科関連領域での「柴苓湯」の役割

「柴苓湯」という漢方薬はむくみを軽減させる効果があり、妊婦さんの浮腫の治療として産婦人科領域で広く使用されてきました。
しかし、柴苓湯の作用は非常に奥が深く、むくみの改善以外にも多くの臨床の現場で用いられています。
今回は、産婦人科としても関連がある様々な場面における柴苓湯の適応についてお伝えします。

 

 

柴苓湯の効果・作用

○ 添付文書の効能・効果

吐き気、食欲不振、のどの渇き、排尿が少ないなどの次の諸症:
水瀉性下痢、急性胃腸炎、暑気あたり、むくみ

○ 主な薬理作用

・利水作用:水分代謝バランスを調整ます
・抗炎症作用;内因性のステロイド分泌を促進し、炎症を抑えます

 

 

排卵障害・月経不順に対する治療

妊娠をご希望されている方で、排卵障害による月経不順がある場合には、定期的な排卵を促す必要があります。一般的に排卵誘発剤を使用しますが、卵巣を過剰に刺激してしまうことや多胎妊娠を引き起こすなど、さまざまな副作用をきたすことがあります。特に、多嚢胞卵巣症候群(PCOS)の場合、副作用の頻度が高くなる可能性があります。

そのような副作用を避けるために、様々な漢方薬を使用することがありますが、柴苓湯もその一つです。排卵を促すことで、月経不順を改善させ、排卵障害による不妊症の治療薬として使用されることもあります。

当院では、挙児希望のPCOSの方に柴苓湯を単独、または排卵誘発剤との併用で使用することがあります。

 

 

感染性胃腸炎に対する治療

ノロウイルス、ロタウイルスなどのウイルス、病原性大腸菌、サルモネラなどの細菌などによる感染性胃腸炎に対して、通常では補液や整腸剤といった対症療法が中心です。そこに漢方薬を併用することは、大変有用であると考えられています。

柴苓湯に含まれている生薬には、抗炎症作用、抗ウイルス作用、抗菌作用のほか、消化吸収機能を向上させ、抵抗力を高める作用や解熱作用を有しているものがあり、細菌性胃腸炎の治療薬として、非常に理にかなっています。また、嘔気嘔吐を抑えるだけでなく、下痢や嘔吐で脱水となった場合の水分バランスを整える作用も有しています。

夏の暑気あたりや冬のノロウイルス感染による嘔吐下痢症には非常に有用であり、当院でも整腸剤と併用することがあります。

 

 

めまい・耳閉感に対する効果

耳鼻咽喉科領域でも滲出性中耳炎やメニエール病などに柴苓湯を用いることが多いそうです。主に内耳の浮腫など、水の偏在を改善する効果があるとの事です。

めまいや耳閉感に対して利尿作用のあるイソソルビド(イソバイドなど)やステロイド薬を用いることが一般的のようですが、あまり重篤でない場合や耳鼻科的に異常がみられない場合、柴苓湯は非常に有用であると思われます。

妊婦さんでめまい、耳鳴、耳閉感などがみられる方がいらっしゃいますが、柴苓湯は妊婦さんが服用しても問題ない薬剤であり、効果も期待できます。また、更年期障害としてのめまい、耳閉感は、ホルモン補充療法では改善しないケースもありますが、そのような場合、柴苓湯は選択枝の一つとなります。

 

 

これからの季節、暑気あたりや下痢などが増えることが予想されます。
特に妊婦さんは免疫力が低下するため、胃腸炎になりやすい傾向があります。
もし急性胃腸炎になってしまったら、整腸剤に加えて、嘔吐や下痢による脱水を予防するために、柴苓湯の服用をお勧めします。