院長コラム

アルツハイマー病とエストロゲン

認知症は記憶障害や認知障害を主体とする高次脳機能障害であり、脳血管障害やアルツハイマー病がその多くの原因を占めています。
本日「敬老の日」は、認知症の半数を占めるアルツハイマー病と女性ホルモンであるエストロゲンとの関係についてお話します。

 

 

アルツハイマー病の原因

アルツハイマー病は加齢や喫煙といった環境因子や遺伝子因子など多くの因子が関係していますが、その発症機序は未だ不明です。

ただし、組織学的にみると老人斑という組織が脳に過剰に沈着しており、その老人斑の主な構成成分であるアミロイドβタンパクという物質は、神経毒性があることが知られています。

また、アルツハイマー病の発症率には性差があり、女性の方が男性に比べて3倍程度多いため、閉経後のエストロゲン欠落がアルツハイマー病に関連しているのでは、と考えられています。

 

 

エストロゲンの脳機能に対する効果

エストロゲンは全身のあらゆる組織に影響を及ぼしていますが、脳機能に対しても様々な作用が知られています。

① 神経伝達物質に対する影響
感情に関わる物質(セロトニン、ドパミンなど)や記憶に関わる物質(アセチルコリン系)の活性化

② 神経細胞の保護
細胞死の抑制と抗酸化作用

③ 神経栄養作用
神経栄養因子の増加と神経細胞の成長

④ 脳機能の活性化
脳血流量の増加と糖の取り込み増加

⑤ 脳内のアミロイドβタンパク沈着の抑制

このように幅広い作用を持つエストロゲンが減少すれば、神経細胞の死滅が進み、脳血流量の減少から脳機能が低下し、脳内のアミロイドβタンパク沈着が増加することで、アルツハイマー病発症の可能性が高まります。

 

 

アルツハイマー病に対するホルモン補充療法の問題点と可能性

しかし、エストロゲンを補充したからといって、全てのアルツハイマー病の予防・治療に有効であるといった報告は残念ながらありません。

特にエストロゲン補充の開始時期が64歳以上の場合には、かえってアルツハイマー病が増加するとの報告があります。また、子宮体がんを予防するために併用するプロベラ(黄体ホルモン)は、エストロゲンの細胞保護作用を抑制してしまうことが知られています。

それでも、ホルモン補充療法の開始時期が早く(60歳頃まで)、治療期間が10年までであり、ホルモン剤の種類を検討すれば、ある程度のアルツハイマー病予防効果は期待できるのでは、と思われます。

 

 

今のところホルモン補充療法は、アルツハイマー病などの認知症予防・治療目的のみで使用することはできません。
しかし、更年期障害、骨粗鬆症、泌尿生殖器の萎縮症状などでお悩みの女性に対して、アルツハイマー病の予防効果も期待しつつホルモン補充療法を行うことは、大変有意義なことであると考えています。