院長コラム

閉経前後女性の睡眠障害

日本人は世界的にみても睡眠時間が短いことが知られており、特に女性は閉経頃から不眠を訴える方が増加すると報告されています。
今回、「日本女性心身医学会研修会」の講演の内容を中心に、当院で行っている薬物療法の内容も交えて、閉経前後女性の睡眠障害について説明します。

 

中高年女性の睡眠状況

厚生労働省の調査によると、40歳代、50歳代女性の50%以上が6時間未満の睡眠であるそうです。成人が心身の状態を健常に保つためには、良質な7~9時間の睡眠が望ましく、最低でも6時間以上は必要との研究もあります。
また、起きている時に蓄積された脳の老廃物が、睡眠中に効率的に排出されるそうです。
不眠の
原因になるストレスが多い中高年女性にとって、睡眠障害の対策は非常に重要です。

 

不眠・ホットフラッシュ・抑うつ症状との関係

閉経期の不眠は、血管運動神経症状であるホットフラッシュ、精神症状である抑うつ症状と強い関係があります。
更年期の不眠の方は、ホットフラッシュが強い傾向があり、抑うつ症状になりやすいといわれています。
また、特に夜間にホットフラッシュがみられると、睡眠の質が低下し、抑うつ症状のリスクが高まるとの報告があります。
さらに、抑うつ症状が強い方は睡眠障害をきたしやすいことが知られています。
このように、不眠・ホットフラッシュ・抑うつ症状はお互いに関連しており、悪循環に陥る危険性があります。

 

中高年女性の睡眠障害に対する対処法

ホットフラッシュが強い場合はホルモン補充療法(HRT)が有用で、睡眠の質を高め、抑うつ症状の改善も期待できます。ただし、更年期症状があまり強くない場合は、HRTの効果は弱いといわれています。
当院では、ホットフラッシュ、発汗といった血管運動神経症状が強い方にはまずHRTを行い、不眠と精神症状に対する効果が不良な場合には、加味逍遙散(カミショウヨウサン)、加味帰脾湯(カミキヒトウ)、抑肝散(ヨクカンサン)、酸棗仁湯(サンソウニントウ)などの漢方薬を併用しています。
また、抑うつ症状が強い場合は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)であるレクサプロ錠などを処方することがあります。

 

閉経前後の方でも、ホットフラッシュなどの更年期症状が乏しく、不眠、抑うつ症状が強い方は、まずメンタルクリニックを受診されることをお勧めします。
また、薬物療法だけでなく、程度な運動をする、規則正しい生活をおくる、寝る前の食事やスマホの使用は控えるなども大変有用です。
薬物療法の有無にかかわらず、良質な睡眠のための生活習慣を心掛けるようにしましょう。