院長コラム

産後貧血に対する薬物療法~人参養栄湯を中心に~

妊産婦さんは、妊娠中から鉄の需要が増えることに加えて血液が薄くなるため、通常貧血になる傾向があります。
さらに、分娩時は出血を避けることができないため、産後に貧血をきたす方は少なくありません。
今回は、当院における産後貧血の薬物療法について、漢方薬「人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)」を中心に説明します。

 

人参養栄湯の効能

人参養栄湯は貧血、病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷えに対する効能・効果が認められます。
また、慢性疾患で微熱、悪寒、咳嗽など伴う場合や、高齢者のフレイル(虚弱)で疲労衰弱している場合にも有効のようです。
さらに、不安感やうつ病にみられる無気力といった精神症状に対する有効性も報告されています。ある研究では、鉄剤単独群よりも、鉄剤と人参養栄湯との併用群の方が、倦怠感の改善と不安の解消がみられたと、と報告されています。

 

当院での鉄剤と人参養栄湯の処方

当院では褥婦さんに対して、自覚症状のない軽度貧血の場合は鉄剤の内服薬(“フェルムカプセル”1カプセル/日または“リオナ錠”2錠/日)、中等度の貧血の方やめまい・ふらつき・動悸などの自覚症状を認める方には、鉄剤に人参養栄湯(7.5g/日)を併用しています。
人参養栄湯には貧血改善効果があり、鉄剤単独よりも人参養栄湯を併用した方が、貧血は改善しやすい傾向にあります。
また、分娩後の疲労感や育児に対する不安感、女性ホルモンの変化に伴う抑うつなどが強い産後のお母さんにとって、人参養栄湯は大変有用であると考えています。。

 

分娩時出血が多い方には、鉄剤の静脈投与を行いますが、貧血の改善にはある程度時間がかかります。
そのため、できるだけ早く疲労感や精神症状の改善を期待して、当院では分娩当日から人参養栄湯を服用して頂いています。
また、冷えに対する効果もあるため、これからの季節は特に有用と思われます。