院長コラム

当院における妊娠12週未満の人工妊娠中絶術および流産手術の方法

妊娠12週未満の人工妊娠中絶術および流産手術は、必ずしも大きな手術ではありませんが、一定の頻度で子宮内容遺残や子宮穿孔などの合併症が認められます。
当院では産婦人科診療ガイドラインにのっとり、できるだけ合併症の発生を抑えるよう心掛けています。
今回は、当院における妊娠12週未満の人工妊娠中絶術および流産手術の方法について説明します。

 

妊娠5週~9週の麻酔法+術式

原則として、手術当日の午前9時に禁食の状態でご来院頂きます(ご来院までは水・お茶・スポーツドリンクの摂取は可)。
ご来院後、経腟超音波検査で子宮内の状況を確認し、子宮頚管を拡張するため、ラミセル(3mm)という頸管拡張剤を挿入します。
午後1時頃、脱水予防および血管確保のため、細胞外液による点滴を開始します。
麻酔は、これまで全身麻酔薬「プロポフォール」を主に使用していましたが、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、人工呼吸器による管理などに必要な「プロポフォール」の需要が増大し、入荷が困難な状態となりました。
そこで今後は、ソセゴン(非麻薬性鎮痛薬)およびホリゾン(抗不安薬)による静脈麻酔、または1%キシロカイン(麻酔薬)を用いた局所麻酔(傍頚管ブロック)を行って参ります。
手術は以前より、合併症の少ない子宮真空吸引法(MVA:Manual Vacuum Aspiration)で行っています。
まずラミセルを抜去し、へガールという頚管拡張器を用いて、ゆっくり丁寧に頚管を広げます。
頚管拡張後、軟らかい吸引チューブ(カニューレ:プラスチック製)を挿入し、手動で陰圧をかけながら、子宮内容を吸引します。ちなみに、当院では妊娠5週~7週の場合は太さ6mm、妊娠8週~9週の場合は太さ8㎜のカニューレを使用しています。ほとんど、数回の吸引で子宮内容を除去することができます。
肉眼的に絨毛組織(胎児側の組織)がある事、超音波検査で子宮内遺残がない事を確認して、手術を終了します。
術後、1時間ほど手術室で経過観察し、静脈麻酔の場合は麻酔が完全に覚めるまで病室のベッドでお休み頂きます。
その後、外来にて内診、超音波検査で異常がないことを確認した後、ご退院頂きます。

 

妊娠10週~11週の麻酔法+術式

術前術後の流れは妊娠5週~9週の場合と同じです。
ただし、原則として麻酔は「プロポフォール」による静脈麻酔とし、手術は電動の真空吸引法(EVA: Electrical Vacuum Aspiration)で行っています。

 

世界的には、経口中絶薬2剤併用による中絶が主流になっており、わが国でも経口中絶薬の臨床試験が実施されています。
認可されるまでには時間がかかるかも知れませんが、人工妊娠中絶および流産処置は、今後更に患者さんにとって低侵襲になっていくと思われます。
現在、当院では7~8時間の入院が必要ですが、安全性を第一に考えつつ、できるだけ患者さんにとって身体的・時間的に負担が少ない方法を目指して参ります。