院長コラム

五苓散の効能と処方の実際

五苓散(ゴレイサン)は、むくみ、水様性下痢など“水毒”に用いられる漢方薬です。
水毒とは水分の代謝障害の事で、全身的・局所的浮腫、体液の分布異常などを含みます。
今回は、五苓散の効能と、当院での処方の実際について説明します。

 

五苓散の効能

五苓散は、口喝や尿量減少を認め、浮腫・下痢・悪心・嘔吐・頭痛・めまい・胃内の水分貯留などがみられる方に使用します。薬理学的な作用としては、利尿作用、すなわち尿量を増加させる働きがあります。

 

妊婦さんの浮腫

妊娠すると、下肢がむくみ易くなったり、朝手指が握りにくくなる事があります。
高血圧や蛋白尿がみられず、浮腫のみであればあまり心配ありませんが、生活に支障きたすほどの浮腫であれば、治療対象となります。
当院では、まず五苓散を処方して経過観察していますが、あまり効果がなければ柴苓湯(サイレイトウ)という漢方薬に切り替えることがあります。

 

低気圧による頭痛・めまい

天気の崩れや台風の接近に伴って生じる頭痛、肩こり、めまいなどの症状を「気象関連痛(天気痛)」と呼ぶそうです。天気痛の患者さんは、内耳が敏感で気圧の影響を受けやすいといわれています。
天気痛のリスクが高い日は、事前に抗めまい薬の服用が勧められていますが、五苓散などの漢方薬も有用であることが知られています。
当院では、低気圧による頭痛・めまいに対して五苓散を第一選択とし、症状が出る前から屯用して頂くようにしています。その他、苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ),半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)を用いることもあります。

 

下痢・胃腸炎

五苓散には下痢を抑える作用があるため、当院では通常の下痢の方に対して、ビオスリー錠などの整腸剤に五苓散を併用することがあります。
ただし、胃腸炎・水様性下痢が悪化する時は、抗炎症作用がより強い柴苓湯を用いることがあります。

 

体内の水分バランスは女性ホルモンの影響を受けやすいため、月経周期に伴う浮腫、頭痛などに悩む女性は少なくありません。
婦人科医としてはホルモン剤を使用することもありますが、症状が多岐にわたる場合は漢方薬が非常に有用です。
今後も、五苓散を適切に用いることで、水毒に苦しむ女性のQOL(生活の質)を改善することができれば、と考えています。