院長コラム
更年期女性の骨・関節のトラブルとホルモン補充療法
10月8日は「骨と関節の日」だそうです(ホネのホは十と八に分かれるため)。今年は体育の日でもありましたので、運動器官の健康に関するイベントも多かったのではないでしょうか。
今回は、更年期女性の骨粗鬆症・関節痛に対するホルモン補充療法(HRT)の効果について説明します。
エストロゲンの骨に対する影響
私たちの骨は、日々壊されて(骨吸収)、新たに作られます(骨形成)。そのバランスがとれていると骨密度は保たれますが、骨吸収が亢進する、あるいは骨形成が低下すると骨密度が低下します。
エストロゲンという女性ホルモンは、骨吸収を抑える作用があるため、卵巣機能に問題のない性成熟女性では骨密度は維持されています。
しかし、閉経後に卵巣機能が低下しエストロゲンの分泌が減少すると、骨吸収が骨形成を上回り、次第に骨密度が減少していきます。それが更に進行すると骨粗鬆症になってしまい(閉経後骨粗鬆症)、背骨(椎体)の圧迫骨折や足の付け根の骨折(大腿骨頚部骨折)をきたしやすくなります。その結果、寝たきりになる危険性が増えてしまいます。
閉経後骨粗鬆症に対するHRTの効果
エストロゲンを補充するHRTは、製剤の違いや投与量によらず骨吸収を抑制し、骨密度を増加させ、骨折予防効果があることが、多くの研究で認められています。
ある研究では、HRTにより椎体圧迫骨折を35%、大腿骨頚部骨折を34%、全骨折を29%程度抑制した、と報告されています。
その他、関節保護作用、運動機能改善作用、姿勢バランスの改善作用も認められており、HRTは運動器系全体の改善にも期待できます。
関節痛に対するHRTに効果
関節痛は更年期に認められやすい症状の一つです。関節軟骨にはエストロゲンの受け皿(受容体)が多数存在しており、エストロゲンが関節機能の維持に大きな影響を及ぼしていることは間違いありません。したがって、閉経後エストロゲンが低下すると、さまざまな関節症状が認められるようになります。
HRTの関節痛に関する効果については様々な報告がありますが、ある研究では、ホットフラッシュや性器乾燥感と同様、関節痛にもHRTの効果が確認されています。
HRTには更年期女性の様々なトラブルを軽快させる可能性がありますが、特に閉経後骨粗鬆症の予防・治療については第1選択となっています。
また、整形外科的に異常がない関節痛に対しても、他の更年期症状がある場合、当院では積極的にHRTを使用しています。
尚、HRTを行う場合、閉経後早期の方が効果的といわれていますので、閉経後速やかに骨密度を測定しましょう。