院長コラム

子宮頚部病変に対する妊孕性温存手術         ~第一回新大橋婦人科フォーラムから~

先日、東邦大学医療センター大橋病院産婦人科主催の「第一回新大橋婦人科フォーラム」に参加してきました。
特別講演「子宮頚部病変に対する妊孕性温存手術」のお話が大変勉強になりましたので、今回は一部情報を共有させて頂きます。

 

 

妊孕性温存手術の必要性

ハイリスクのヒトパピローマウイルス(HPV)の持続的な感染は子宮頚部の異形成をきたし、その後進行すると子宮頚がんに至ります。通常、進行した子宮頚がんの手術療法では、子宮および子宮を支えている靱帯を広範囲に摘出し、骨盤内のリンパ節を廓清します。しかし、子宮を全部摘出してしまえば、当然妊娠することは不可能になります。

近年、晩婚化が進み、初めて出産する年齢が30歳を超えました。一方、子宮頚がんの罹患は若年化がすすみ、20~30歳代の患者さんの数が急増しています。つまり、妊娠する前に子宮頚がんにかかり、進行がんのために子宮を取らざるを得ない患者さんが今後さらに増えていくことが予想されます。

そこで、従来はがんの再発を防ぐために「安全策の治療」が行われてきましたが、妊娠を希望している患者さんに対して、再発防止を優先しながらできるだけ子宮を温存し、妊娠後も周産期合併症の確率を減少させるような、「妊孕性(妊娠する力)温存手術」が多く行われるようになってきました。

 

 

妊孕性温存手術(1)レーザー蒸散術

子宮頚部高度異形成から上皮内がん(CIN3)に対して、病変部を円錐状に切除する「円錐切除術」が標準的となっています。しかし、円錐切除術の既往がある妊婦さんは、早産のリスクが高くなることが知られています。

そこで、将来妊娠をご希望あれるCIN3の患者さんには、レーザーで病変部を焼いていく、「レーザー蒸散術」が行われるようになってきました。この方法であれば、早産リスクは高くならないと言われています。

 

 

妊孕性温存手術(2)円錐切除

レーザー蒸散術では腫瘍の残存の可能性が避けられない場合には、従来どおり「円錐切除術」が選択されます。ただし、早産リスクを少しでも減少させるため必要十分な切除に留めるなど、工夫がなされます。

また、頻度は少ないものの悪性度の高い子宮頚部腺がんの場合、従来から子宮全摘が標準治療でしたが、状況に応じて円錐切除のみで妊孕性を温存することも可能な場合があります。

 

 

妊孕性温存手術(3)広汎性子宮頚部摘出術

浸潤がんの治療は、原則として広汎子宮全摘出術あるいは放射線療法が行われます。しかし、あまり進行しておらず、腫瘍もあまり大きくない場合、子宮体部(受精卵が着床し、胎児が発育する場所)を残して、子宮頚部と靱帯を摘出し骨盤リンパ節郭清を行う「広汎性子宮頚部摘出術」が行われるようになってきました。早産リスクはありますが、最近ではその頻度は減少しており、多くの方が37週で帝王切開となっている、との報告もあります。

 

 

当院では、上記の手術はどれも行っていませんが、「レーザー蒸散術」は東京医療センター、目黒区大鳥神社そばの田中レディスライフクリニックなど、「円錐切除術」は東京医療センター、東邦大学大橋病院など、「広汎性子宮頚部摘出術」は東邦大学大橋病院、慶応義塾大学病院などを紹介させて頂いています。
しかし、妊孕性温存手術も課題があり、今後も完璧にはならないでしょう。やはり、予防と早期発見が何より大切です。
HPVワクチン接種と定期的な子宮頚がん検査の重要性を改めて認識した講演会でした。