院長コラム

子宮腺筋症合併妊娠の産科合併症

子宮腺筋症とは、子宮内膜組織が子宮筋層内に発生し、子宮筋層が肥厚する病気です。女性ホルモンであるエストロゲンによって発育し、日本における子宮腺筋症の罹患率は平均20~30%とされます。
また、子宮腺筋症の診断平均年齢は約38歳であり、30歳代後半から40歳前半の妊娠を希望する女性が増加していると考えられています。
今回は、日本産婦人科医会が今月発行しました「研修ノート 子宮内膜症・子宮腺筋症」を参考に、子宮腺筋症合併妊娠について説明します。

 

 

子宮腺筋症の自覚症状と診断

子宮腺筋症の自覚症状として、子宮出血(過多月経、不正出血など)と疼痛(月経痛、慢性痛、性交痛、排便痛など)があります。子宮腺筋症患者さんの約80%は、月経困難症・過多月経を主訴に婦人科を受診し、診断されています。ちなみに、不妊の検査目的で受診された方の約5%に子宮腺筋症がみられるそうです。

婦人科外来での診察は、通常内診と経腟超音波検査が行われます。子宮の大きさ、圧痛や移動痛の有無、子宮腺筋症の程度、子宮筋腫や子宮内膜症性卵巣嚢胞(チョコレート嚢胞)の合併の有無などを確認します。

場合によっては精査のため、MRI検査を行う場合や、過多月経に対して貧血関連の血液検査、腫瘍マーカー:CA125を調べることもあります。

 

 

子宮腺筋症合併妊娠の産科合併症

子宮腺筋症についての報告は少ないですが、様々な合併症が増加するといわれています。

 

① 後期流産・頚管無力症

妊娠22週未満の児の娩出を流産といい、妊娠12週までの流産を早期流産、妊娠12週以降22週未満の流産を後期流産といいます。
また、妊娠週数が早い時期に、本来であれが閉じているべき子宮の出口(頚管)が、陣痛がないにも関わらず自然に広がってしまう病態を頚管無力症といい、後期流産の重大な原因となります。
子宮腺筋症合併妊娠では頚管無力症が発症しやすく、約10%が後期流産に至るとの報告があります。

 

② 前期破水・早産

妊娠22週~37週未満の分娩を早産といい、陣痛が始まる前に破水することを前期破水といいます。子宮腺筋症合併妊娠の場合、自然早産だけでなく、様々な合併症から母児を守るために、帝王切開などで人工的に早産となる場合もあります。結果的に、子宮腺筋症合併妊娠の約25%が早産に至るともいわれています。

 

③ 妊娠高血圧症候群・胎児発育不全

子宮腺筋症のため胎盤の形成に異常が生じ、妊娠高血圧症候群(母体の収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上)を合併することが知られており、子宮腺筋症合併妊娠の10~30%に発症するといわれています。
また、胎盤形成異常に伴い、胎児の発育に異常をきたす可能性もあります。

 

④ 胎盤位置異常・胎位異常

子宮腺筋症合併妊娠は前置胎盤(胎盤が赤ちゃんの出口である内子宮口を塞ぐ状態)や低置胎盤(内子宮口と胎盤辺縁までの距離が2cm未満の状態。経腟分娩で出血が増加するため、計画的に帝王切開となることが多い。)になりやすいといわれています。
また、胎位の位置が、骨盤位(逆子)、横位(頭が真横)、斜位(頭が斜め下)のように頭位(頭が真下。正常。)以外になる事が増えるともいわれています。

以上様々な産科合併症が増加することから、結果的に子宮腺筋症合併妊娠の約60%が帝王切開になるといわれています。

 

 

当院で妊婦健診をされる方の中には、子宮腺筋症合併の方もいらっしゃいます。
当院ではその多くの方に対して、高次施設での分娩をお勧めしています。
もし、妊娠期間中に大きな合併症が見られなければ、妊婦健診は当院で対応することも可能ですので、是非ご相談下さい。