院長コラム
妊娠中の水ぼうそう(水痘)
妊娠中、各種感染症に注意が必要ですが、水痘は最も気を付けなければならない感染症の一つです。
今回は、妊娠と水痘について説明します。
水痘と帯状疱疹
水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus :VZV)はヘルペスウイルス科に属するウイルスで、初感染により水痘を発症し、神経節に潜伏した後は再活性化して帯状疱疹を発症します。
VZPは感染力が強く、10歳までにほとんどの小児が罹患しますが、最近成人の水痘が多くなってきているといわれています。
水痘の症状
潜伏期間は10~16日で、発熱や頭痛などの前駆症症状の後、体に発疹が広がります。頭部や口腔粘膜にも皮疹は認められ、7~10日ですべての皮疹が“かさぶた様”になります(痂皮化)。
水痘の感染
水痘患者は発疹1~2日前から発疹出現後5日までの間、あるいは痂皮化するまで感染力を有しています。
感染経路は空気感染、飛沫感染、接触感染です。顔を5分以上合わせたり、同室内に60分以上いると感染の可能性が高まります。
水痘の母体への影響
95%の妊婦さんは抗体を有していますが、抗体を持っていない方が妊娠中に初めて水痘に罹患すると重症化しやすく、特に妊娠末期では重篤な肺炎を合併して、死亡率は35%にも達するとの報告もあります。
したがって、2週間以内に水痘患者と濃厚接触があり、かつ抗体がない妊婦さんは、症状が現れる前に内科へ紹介します。場合によっては予防的にガンマグロブリン注射を行うこともあります。
水痘の胎児・新生児への影響
妊娠初期の初感染では0.55%に、妊娠中期では1.4%に胎児が先天性水痘症候群となるとの報告もあります。
先天性水痘症候群の主な症状として、四肢低形成、指趾の無形性、運動知覚障害、皮膚の瘢痕、小眼球症などが挙げられます。
さらに、分娩前後の初感染でも新生児に影響がみられることがあります。分娩前5日から分娩後2日に罹患した場合では、30~40%の児が生後5~10日に水痘を発症し重症化することがあり、死亡率は約30%にのぼるともいわれています。
もし、妊娠末期に妊婦さんが水痘を発症した場合、新生児の重症化を防止するために、できるだけ発症6日後以降に分娩することを目指して、子宮収縮抑制剤を投与し妊娠期間を延長させることもあります。その場合は念のため、新生児科のある高次施設へ転院となります。
頻度は少ないとはいえ、妊娠中の水痘は母児ともに大きなリスクとなります。
水痘の抗体がない妊婦さんは、流行期は外出を控え、マスクを着用するなど、できる限り予防しましょう。