院長コラム

ホルモン製剤で月経を止めても大丈夫?

思春期から更年期までの多くの女性が経験する月経(生理)ですが、月経トラブルに関して学校や家庭であまり詳しく教わらなかった方も少なくないようです。
そのため、「月経痛は我慢すべきもの」といった考えの人が多いのも事実です。
今回は、「月経困難症の治療として月経を止めても大丈夫なのか?」について説明致します。

現代女性の月経回数は昔の女性の約9倍!
妊娠するためには、排卵することと、子宮内膜を妊娠に適した(フカフカ)状態にする事が必要です。
月経は「妊娠が成立しなかった場合の、フカフカ内膜が剥がれ落ちる出血」とも言えます。
もし妊娠が成立すれば、内膜は剥がれる事がないので月経は起こりません。また、授乳中は排卵しないことが多く、妊娠に向けて準備する(子宮内膜をフカフカにする)必要がないため、多くの方は無月経となります。
皆さんの“おばあ様”あるいは“ひいおばあ様”以前のご先祖様は、生涯に4~5回妊娠していた方も多く、それ以上妊娠されていた方も少なくありませんでした。さらに、分娩後は次の妊娠まで授乳している場合も多く、結果的に月経のある期間が短くなり、生涯の月経回数は約50回程度と言われています。実はこの程度が、女性の体にとって最も適切な回数と言えます。
一方、現代女性の妊娠回数は少なく、授乳期間も短くなったため、生涯月経回数は約450回とも言われています。
つまり、たかだか数十年で、女性の生涯月経回数が約9倍にも増加したことになり、明らかに現代女性の月経回数は“異常に多い”と考えられます。

月経回数が多いと子宮内膜症になるリスクがアップ!
子宮内膜症とは、子宮の内側にある子宮内膜組織が腹膜や卵巣などに発生し、増殖・出血・癒着を繰り返す病気です。子宮内膜症は月経痛、月経期以外の下腹部痛・腰痛、性交痛などの原因になり、放置すると不妊症や卵巣がんに繋がる可能性もあります。。
子宮内膜症の原因ははっきりわかっていませんが、子宮内膜組織を含む月経血が、膣から外に排出されるだけでなく、卵管を通ってお腹の中に逆流し、子宮内膜組織が腹腔内で増殖してしまう事が要因の一つと考えられています。
つまり、月経回数が多ければ、月経血の腹腔内への逆流頻度も高くなり、腹腔内で子宮内膜組織がはびこるリスクが高まります。

月経回数を減らすことは“悪”ではなく“善”!
そもそも月経は、すぐに妊娠を希望するのでなければ、必ずしもある必要はありません。もちろん、周期的に適量の月経がみられるかどうかは、子宮や卵巣の病気の有無を診断するために、非常に重要です。
しかし、月経困難症、過多月経、月経前症候群などにより日常生活に支障をきたしているのであれば、生活の質をアップさせるため、むしろ一時的に月経を止める事は有用です。

月経困難症の薬物療法として、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP:低用量ピル)や黄体ホルモン製剤(ジエノゲスト錠など)を使用することがあります。
服用方法によっては、月経の回数を減らしたり、無月経にさせることもありますので、皆さんの中には不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。

ただし、「月経を抑えること」は月経困難症・子宮内膜症の治療や予防に大変有効ですので、ご心配されないようお願い致します。