院長コラム

エストロゲンが及ぼす女性の体型・行動への影響

女性ホルモンのエストロゲンは月経、排卵、妊娠をはじめ、女性にとって非常に重要なホルモンです。エストロゲン(estrogen)の語源は、est(発情、性的な欲望)+gen(呼び起こす)の合成語で、「性的な欲求を呼び起こす物質」として命名されたそうです。
今回はエストロゲンと女性の体型・行動について、東京大学名誉教授の武谷雄二先生がお書きになられた「エストロゲンと女性のヘルスケア」(メジカルビュー社)を基に、お話したいと思います。

 

 

エストロゲンと女性の体型

あくまでも一般論ですが、ウエストが細くて乳房が発達し、ヒップが大きい体型が、男性から見た女性の魅力の一つといわれています。体重は標準であっても、太ももや腰の周りの皮下に脂肪が蓄積すると、相対的にウエストが細く、ヒップが大きくなりますが、このような体型は女性特有なものであり、エストロゲンが十分に作用していることの表れといえます。

反対に、閉経に近づいてエストロゲン作用が低下すると内臓脂肪が増え、ウエストは太めになり、体重過多になる傾向があります。また、極端なダイエットを行なうと、エストロゲンは低下し、ますます体全体の脂肪量が減少します。そして、どちらもその多くは無排卵(閉経や体重減少性無月経など)となることが多くなるため、「妊娠・分娩・育児に対して適している女性」であると男性が判断することはあまりないでしょう。

つまり、ヒトという種を維持するために、子作りや子育てに適した体型(ウエストが細くて乳房が発達し、ヒップが大きい体型)で男性を引き付けることが、エストロゲンに課せられた役割の一つかもしれません。

 

 

ヒトの発情期

動物の場合、発情期にメスはオスを引き寄せる行動をとりますが、これはエストロゲンの作用によるもののようです。ヒトの場合、外見上の発情徴候はみられませんが、月経周期によって様々な変化がみられるようです。

たとえば、エストロゲンがピークになる時期に容姿、振る舞い、声が異性にとって最も魅力的になるとの研究があるそうです。また、男性からは、排卵時期の女性の体臭が最も心地よく感じられるとの研究や、排卵が過ぎた時期よりも排卵が近づいている女性に対して、異性としての魅力をより感じる、との研究もあるとの事です。

反対に、排卵期には女性も性的な視覚刺激に敏感であるという研究や、排卵が近い女性は男性の汗の匂い(フェロモン)を心地よいと感じられるとの研究もあるそうです。

月経が終わってから排卵に至るまでのエストロゲンが優位な時期は、ある意味ヒトの隠れた発情期といえそうです。そして、排卵後は、黄体からエストロゲンとともに黄体ホルモンが分泌されます。排卵から月経に至るまでは黄体ホルモンの方が優位となり、エストロゲンの働きを打ち消すように作用します。この時期は、発情期とは反対に「男は必要ない」時期といえるかもしれません。

 

 

エストロゲンと食欲

エストロゲンには食欲を抑える作用があり、エストロゲン分泌が高まる発情期には食欲が落ち、排卵期にはカロリー摂取量が減るといわれています。しかし、排卵後は、黄体ホルモンの作用によってエストロゲンの作用が抑えられるため、食欲が亢進して体重が増加しやすくなるかも知れません。

ちなみに、閉経後の女性は月経がある女性と比べて、肥満の割合が高まるといわれています。また、閉経後女性にエストロゲンを補充すると、体重増加は鈍化するとの報告があるそうです。

いずれにせよ、女性の場合、エストロゲンの働きによって食欲や体格を操られているといえるかもしれません。

 

 

エストロゲンは様々な作用をもっていますが、女性の健康と生殖を司っていることには間違いありません。
そのようなエストロゲンとの付き合い方を意識しながら、皆様の健康やQOL(生活の質)向上のお役に立ちたいと、私たちは考えています。