院長コラム

まだ妊娠したくない女性の多嚢胞性卵巣症候群の治療

多嚢胞性卵巣症候群(POCS)は、月経異常(希発排卵・無排卵など)をきたす疾患であり、生殖年齢女性の5~8%に発症するといわれています。また、不妊の原因になるだけでなく、妊娠後は妊娠糖尿病などの産科合併症のリスクが増加することも知られています。
今回は、まだ妊娠はしたくないが、月経異常を改善したい女性に対する治療について、「産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2017」「女性内分泌クリニカルクエスチョン」(診断と治療社)などを参考に説明します。

 

 

PCOSの診断基準

我が国でのPOCSの診断基準は、①月経異常②多嚢胞卵巣(超音波検査)③血中の男性ホルモン高値または黄体化ホルモン(LH)基礎値高値かつ卵胞刺激ホルモン(FSH)基礎値正常となっています。
つまり、月経不順で受診された方に対して、超音波検査、血液検査を行なった上でPOCSと診断します。

 

 

ライフスタイルの改善

PCPSと肥満は関連しており、我が国ではPCOSの患者さんの約15~20%が肥満といわれています。その場合は、5~10kgの減量を目標に、食事や運動を中心としたライフスタイルの改善が重要です。それだけで自然に排卵がみられ、月経が順調になることもあります。

 

 

ホルムストローム療法

ホルムストローム療法とは、周期的に黄体ホルモン製剤を一定期間服用することで、あたかも排卵したかのようなホルモン環境を作り、人工的に月経様の出血を起こさせる治療法です。3か月ほど治療し、その後休薬することで、自分自身のホルモン環境が改善されることを期待します。

当院では、月経開始日または薬剤による消退出血開始日の約14日目から黄体ホルモン製剤「デュファストン錠」3錠/日を10日間服用して頂きます。

 

 

カウフマン療法

カウフマン療法は、卵胞ホルモン剤と黄体ホルモン剤を組み合わせて人工的な月経周期を作り、ホルムストローム療法と同様、休薬後にホルモン環境が改善されることを期待する治療法です。

当院では、月経開始日または薬剤による消退出血開始日の約8日目から卵胞ホルモン製剤「プレマリン錠」を1錠/日を7日間服用し、翌日から卵胞ホルモン・黄体ホルモンの合剤(中用量ピル)「プラニバール錠」1錠/日を10日間服用して頂きます。

PCOSに対しては、通常ホルムストローム療法を行ないますが、あまり効果がなければカウフマン療法を行なうことがあります。ただし、どちらも休薬期間に排卵する可能性があるため、パートナーがいらっしゃる場合は、コンドームによる避妊が必要です。

 

 

低用量ピル(OC)または低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)

パートナーがいるため、むしろ確実な避妊を希望される方は、自費になりますがOCを服用して頂きます。また、月経痛がみられる方の場合は、保険診療でLEP「ヤーズ配合錠」などを用いることがあります。
どちらも、妊娠を希望されるまで服用が可能であり、服用を中止した後は、ホルムストローム療法やカウフマン療法と同様に、自身のホルモン環境が改善されることも期待できます。

 

 

漢方療法

PCOSの治療として、「温経湯」や「柴苓湯」といった漢方薬を用いることがあります。当院では単独で用いることもありますが、ホルムストローム療法やカウフマン療法と併用することも少なくありません。

 

 

PCOSに対する治療は、妊娠希望がない時期はホルモン療法と漢方療法が主体となりますが、妊娠を希望すれば排卵誘発剤が主体となります。
将来を見据えながらも、現時点でのご希望に沿うような形で治療目標を設定し、治療法を決めて参ります。