院長コラム

なぜ、ヒトには月経があるの?

先日、総合研究大学院大学の進化生物学の先生から「現代女性の月経」についてご講演がありました。
産婦人科臨床医とは異なった視点で月経を捉えており、とても新鮮で興味深いお話でした。
今回は、ご講演の内容を少しご紹介したいと思います。

 

 

ヒト以外に月経がある動物は?

月経がある動物の方が珍しく、ヒト・一部のサル・一部のコウモリやネズミだけのようです。ちなみに、子宮内膜が剥がれ落ちることを月経と定義すると、イヌには月経はありません。イヌにも見られる出血は、陰部の充血によるもので、ヒトの月経とは全く異なります。

 

 

月経がある理由は?

以前は、月経は子宮内をきれいにするために衛生上必要なもの、という仮説がありましたが、今では否定されています。

最近は、「受精卵選別説」が主流のようです。この説によると、受精卵や母体の状況などから、「妊娠継続が可能」な場合は月経を起こさずに妊娠を継続させ、「妊娠を継続しないほうがいい」場合、たとえば受精卵のトラブル、母体の栄養失調状態などの場合では、あえて月経を起こさせて、妊娠を成立させないようにします。つまり受精卵を選別する役割を月経が担っている、ということです。

もちろん仮説ですので、本当のところはわかりませんが、「月経自体は女性の体にとって、必ずしも必要ではない」というのが、現代では常識になっています。

 

 

社会環境の変化と月経

月経は妊娠中には見られず、分娩後も授乳期間が長いほど月経開始が遅くなります。つまり、妊娠・出産の回数が多く、授乳期間が長ければ、女性が一生に経験する月経回数は少なくなります。一方で少子化が進み、授乳期間も短ければ、月経回数は多くなります。

以前は、女性が一生に経験する月経回数は50回程度ですんでいましたが、現代女性の場合、約9倍の440回にまで増えているといわれています。

進化生物学的には、ヒトの一生の月経は約50回が適切であるのに、未だかつて経験したことのない過剰な月経に現代女性は襲われている、と考えてもいいでしょう。

 

 

多くの現代女性は月経に関連する病気に悩まされています。そして、その月経は無駄に多いことが問題です。
月に一回月経があることが、現代女性にとって必ずしもいいことであるとはいえません。
今後、女性ホルモンを用いて月経をあえて止める治療法が増えていくと思いますが、その治療の意義を我々も皆様にわかりやすく発信していきたい、と思っております。