院長コラム

黄体ホルモンと子宮内膜症・子宮筋腫との関連

先日、東邦大学医療センター大橋病院産婦人科主催の講演会があり、東京大学産婦人科の先生から、子宮内膜症・子宮筋腫に関するお話を伺って参りました。
今回は、黄体ホルモンと子宮内膜症・子宮筋腫との関連について情報共有したいと思います。

 

黄体ホルモンの働き

月経後、卵巣にある卵胞(卵子が入っている袋)から卵胞ホルモン(エストロゲン)が分泌されます。
エストロゲンは子宮内膜組織を増殖させ、内膜を厚くさせます。
月経開始から14日目頃、卵胞が弾けて卵子が飛び出ます(排卵)。
排卵後、卵胞は黄体という組織に変化して黄体ホルモンを分泌します。
黄体ホルモンは、子宮内膜組織の増殖を抑え、妊娠に適した状態に変化させる働きがあります。                                                                    

 

黄体ホルモンの子宮内膜症への影響

子宮内膜症とは、本来子宮内腔にのみ存在するはずの子宮内膜組織が、腹膜や卵巣にはびこり、増殖・出血を繰り返す病気です。
子宮内膜症が進行すると、月経痛・慢性骨盤痛・性交痛・排便痛をきたし、不妊症の原因になることもあります。尚、子宮筋層内に子宮内膜組織が紛れ込んでいる場合を子宮腺筋症といいます。
子宮内膜症・子宮腺筋症は、子宮内膜組織を増殖させるエストロゲンによって悪化し、増殖を抑える黄体ホルモンで軽快します。
そこで、自前のエストロゲン分泌を抑え、外から黄体ホルモンを補う「低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬:LEP」「黄体ホルモン製剤:ディナゲスト錠など」が子宮内膜症・子宮腺筋症の治療によく用いられています。
ただし、中には、黄体ホルモンの効果が弱い“反応不良タイプ”が存在します。そのため、LEPやディナゲスト錠での治療効果が思わしくない場合は、人工的に閉経状態にする「偽閉経療法」(レルミナ錠連日服用・リュープロレリン1.88月一回皮下注など)に切り替えることがあります。

 

黄体ホルモンの子宮筋腫への影響

子宮筋腫はエストロゲンによって増大しますが、実は黄体ホルモンによっても増大することが知られています。
つまり、子宮内膜書・子宮腺筋症では有用である黄体ホルモン製剤は、子宮筋腫に対してはむしろ良くない場合もあります。
そのため、子宮内膜症や子宮腺筋症に子宮筋腫が合併している方(決して少なくありません)にディナゲスト錠を投与する場合は、子宮筋腫の増大に注意する必要があります。
子宮筋腫が増大する場合は、偽閉経療法あるいは手術療法に変更することがあります。

 

偽閉経療法は非常に有用な治療法ですが、骨密度の低下という副作用があるため、原則6か月間しか行えません。
子宮筋腫治療薬として、過去には海外で黄体ホルモンをブロックする薬剤が用いられていましたが、残念ながら副作用の問題で現在使用することはできません。
当院では、現在わが国にある様々な薬物を適切に使用し、手術療法も視野に入れながら、高次施設と連携しつつ子宮内膜症・子宮筋腫を治療していこう、と考えています。