院長コラム

食欲がなく疲れやすい方には漢方薬「人参養栄湯」がいいかもしれません

食欲の低下は筋肉量の減少を招くだけでなく、情動や認知などの精神面にも影響を及ぼし、高齢者の場合は「フレイル」「サルコペニア」に繋がる可能性があります。
今回は、食欲不振がきたす様々な病態に対する人参養栄湯の効果について、「phil漢方 No.76 2019」を参考にしながらお話します。

 

 

人参養栄湯の効能・効果と副作用

人参養栄湯の効能・効果は「病後の体力低下」、「疲労倦怠」、「食欲不振」、「ねあせ」、「手足の冷え」、「貧血」とされています。ある調査では、上記の6症状ともに、服用8週間後には有意に改善し、24週後も改善傾向が継続していました。

副作用は、悪心、腹部不快感、下痢、便秘などの胃腸障害が最も多く、約2%の方にみられたそうですが、当院では副作用が原因で服用が中止になった方は、現時点ではいらっしゃいません。

 

 

「フレイル」「サルコペニア」と人参養栄湯

「フレイル」とは、老化に伴う様々な機能の低下により、疾病発症や身体機能障害をきたしやすくなっている状態で、なおかつ適切な介入によって健常に戻ることができる状態をいいます。また、「サルコペニア」とは、筋肉量の低下に加え、筋力の低下または身体能力の低下を併せ持つ状態をいいます。

加齢などの原因で食欲が低下すると、エネルギーの摂取量が低下し、体重減少・筋肉量低下・筋力低下・活力低下を招き、身体活動が低下します。活動度の低下は消費エネルギー量の低下につながり、更に食欲が低下するという、「フレイル」「サルコペニア」の悪循環に陥ります。人参養栄湯には食欲を増進させる作用があるため、この悪循環を断ち切り、「フレイル」「サルコペニア」の改善が期待できる、とのことです。

 

 

当院での人参養栄湯の使用法

妊娠期から産褥期にかけて、鉄欠乏性貧血になる女性は少なくありません。鉄剤が第一選択ですが、鉄剤による胃痛のため服用できない方や、鉄剤のみでは改善されない方もいらっしゃいます。そのような方には、人参養栄湯単独または鉄剤との併用で対応しています。

また、秋から冬にかけては手足の冷えを認める方が多く、体を温める作用のある漢方薬を処方する機会が増えます。中でも、疲労感・倦怠感が強い方には人参養栄湯を選択しています。

更に、更年期障害などでホルモン剤や他の漢方薬を使用しているのにも関わらず、寝汗が改善しない方には、人参養栄湯を併用することがあります。

 

 

食欲が低下して体力が低下すると、免疫力も低下します。人参養栄湯には免疫調節作用があり、免疫が低下している時には免疫能を回復させる働きがあります。
新型コロナウイルスの感染が広がる今、免疫力を高めるために、人参養栄湯の服用を検討してもいいかもしれません。