院長コラム

閉経期女性の脂質異常症への対応について

脂質異常症は動脈硬化の重大なリスク因子の一つであり、動脈硬化は心筋梗塞や脳卒中を引き起こす可能性があります。そのため、脂質異常症の管理は健康寿命の延長に欠かせません。
女性の場合、閉経前は血中エストロゲン濃度が保たれており、脂質異常症になる頻度は高くありません。しかし、閉経期に入ると急激に血中エストロゲン濃度が低下し、総コレステロール、LDLコレステロール(悪玉)、中性脂肪が上昇し、脂質異常症の患者数が急増します。
今回は、「産科と婦人科 2019年12月号:オフィスギネコロジーにおける脂質管理」を参考に、閉経期女性の脂質異常症の対応について説明します。

 

 

当院における脂質異常症管理の対象

当院は産婦人科医院であるため、最初から脂質異常症の精査・治療目的で受診される方はいらっしゃいません。更年期障害などを主訴に受診された中高年女性に対し、脂質異常症が隠れていないかを明らかにすることが、産婦人科医の役割であると考えています。

狭心症や心筋梗塞、脳卒中の既往や高血圧症・糖尿病などの合併症がある方は、すでに内科や専門外来で二次予防や治療されていますので、それ以外の40代、50代の閉経期女性が当院での対象になります。

 

 

脂質関連の血液検査

職場の健康診断、人間ドック、自治体の特定健診など受けられていれば、脂質関連の血液検査をされていると思います。しばらく健診を受けていない方には、女性ホルモン関連の血液検査と一緒に脂質関連の項目も検査するようにします。
具体的には総コレステロール、HDLコレステロール(善玉)、中性脂肪を測定し、LDLコレステロール(悪玉)は計算式で求めます。以下の項目に一つでも当てはまれば、脂質異常症と診断され、リスク区分されます。

① LDLコレステロール :140mg/dl以上
② HDLコレステロール : 40mg/dl未満
③ 中性脂肪     :150mg/dl以上
④ non HDLコレステロール:170mg/dl以上

 

 

リスク区分と脂質管理目標値

40~59歳女性の場合、(1)喫煙(2)高血圧(3)低HDLコレステロール血症(4)耐糖能異常(5)早発性冠動脈疾患家族歴の5つの危険因子のうち、0~1であれば低リスク、2個以上あれば中リスクとなります。

低リスクおよび中リスクの方の脂質管理目標値は、以下のようになります。

低リスクの方:
・ LDLコレステロール :160mg/dl未満
・ non HDLコレステロール:190mg/dl未満
・ 中性脂肪     :150mg/dl未満
・ HDLコレステロール : 40mg/dl以上

中リスクの方:
・ LDLコレステロール :140mg/dl未満
・ non HDLコレステロール:170mg/dl未満
・ 中性脂肪     :150mg/dl未満
・ HDLコレステロール : 40mg/dl以上

 

 

低・中リスク女性への対応

更年期障害の有無に関わらず、まず生活習慣を見直し、改善することが第一歩となります。更年期障害がある方で、ホルモン補充療法(HRT)が禁忌でなければ、HRTを積極的に行なうことがあります。なぜなら、HRTには更年期障害の治療効果だけでなく、脂質代謝の改善効果が認められるからです。
約6か月の生活習慣の改善やHRTで脂質管理目標値に到達しない場合は、スタチンなどの脂質異常症治療薬を使用することになります。

 

 

生活習慣の改善により脂質異常症が軽快することもあれば、ちょっとした生活習慣の乱れにより脂質異常症が増悪することもあります。
特にエストロゲンが減少する閉経期の女性は、定期的に脂質関連の血液検査を行い、その結果を生活習慣改善のモチベーションアップのために活用して頂く事をお勧めします。