院長コラム

遺伝性乳がん卵巣がん症候群の患者さんに対して、予防的切除手術が保険適応に

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の乳がんや卵巣・卵管がんを発症している患者さんに限り、未発症の対側乳房や卵巣・卵管を予防的に切除する手術が、来年度から保険適応になると、先日発表されました。
今回は、HBOCについての簡単な説明と一般婦人科開業医である当院が果たす役割についてお伝えしたいと思います。

 

 

HBOCとは

BRCA1およびBRCA2という遺伝子は、細胞が“がん化”するのを防ぐ働きがあります。そのBRCA1遺伝子あるいはBRCA2遺伝子に変異がみられると、乳がんや卵巣がんなどを発症しやすくなることが知られており、前立腺がん、膵臓がん、悪性黒色腫なども関連すると言われています。これらの遺伝子変異があるからといって、必ずしも全員が乳がんや卵巣がんなどになるとは限りませんが、BRCA1またはBRCA2の遺伝子変異を持つ女性の場合、70歳までの乳がん罹患リスクはそれぞれ約60%と約50%、卵巣がんのリスクはそれぞれ約40%と約20%と言われており、年齢が上がるにつれて発症リスクが上昇します。

また、卵巣がん発症のリスクは40歳頃から徐々に高くなりますが、乳がん発症のリスクは早くも25歳頃から高くなり始めますので、遺伝子変異を持つ女性は若い時期から健診を受けることが勧められています。その意味では、仮にご自身が発症していなくても、近親者に乳がん、卵巣がんなどを発症された方がいらっしゃる場合には、ご自身の遺伝子変異の有無を調べることも大切かもしれません。

 

 

HBOCの予防的な治療

HBOCの乳がんの場合、対側の乳房にも将来がんが発生する確率が高いといわれています。また、腫瘍側の乳房のみを切除した方と比べて、腫瘍がみられない対側の乳房も切除した方が、生存割合が高いことも知られています。さらに、卵巣がん・卵管がんになっていなくても、予防的に卵巣・卵管切除術を行なうことで死亡率が低下することも報告されています。

国内外の様々なガイドラインでは、BRCA1またはBRCA2の遺伝子変異を持つ女性に対して、卵管卵巣摘出術や乳がん患者さんの対側乳房切除術は推奨されています。ただし、これまで未発症部位の切除は、あくまでも予防的手術であるため、我が国では保険適応ではなく自費診療であったため、数十万以上の高額な費用がかかっていたようです。
今回、予防的な切除手術が保険で認められたことは非常に画期的であり、これから手術を受けようとされる方には朗報であると思われます

 

 

HBOCに関する当院の役割

当院では初診時の問診票に家族歴を記載して頂くだけでなく、乳がんと卵巣がんに関しては発症年齢なども問診・予診で伺うようにしています。特に近親者で若年発症の乳がんの方や、乳がん・卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん患者さんが複数いらっしゃる方には、HBOCについて簡単にお話しています。
当院の役割は、BRCA1またはBRCA2の遺伝子変異の家系である可能性がある方を、東京医療センターや慶応義塾大学病院など、遺伝子カウンセラーや家族性腫瘍のスペシャリストがいらっしゃる遺伝子センターなどに繋げる事だと考えています。

 

 

私は遺伝子カウンセラーではありませんが、“橋渡し”の役割を果たせるよう、引き続きこの領域について学び、情報を発信して参ります。