院長コラム

過多月経に対する止血対応 ~「トランサミン錠」出荷制限を受けて~

令和4年12月、止血剤の「トランサミン錠(トラネキサム酸)」が出荷制限されるとの連絡が入りました。
産婦人科領域では、過多月経に対して使用することが多く、今回の“出荷制限”は今後大きな影響を及ぼす可能性があります。
今回、当院としての「過多月経に対する止血対応」について、私見を述べさせて頂きます。

 

漢方薬を積極的に利用

当院では、ホルモン製剤による不正出血に対し、止血作用を有する「芎帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ)」を使用してきました。実臨床での経験では、止血効果は高い印象があり、文献的にも「トランサミン錠」と同等か、むしろそれよりも即効性がある、との報告があります。
ただし、漢方薬が苦手な方に継続して服薬して頂くのは、工夫しないと難しいかも知れません。また、古来より子宮出血に用いられている薬剤であるものの、保険適応の病名は「痔出血」のみである点も使用しづらいところです。
ただし、トランサミン錠を処方することができないのであれば、当院では今後、芎帰膠艾湯の使用を増やしていこうと考えています。
尚、そもそも月経血の増量を防ぐために、過多月経に保険適応がある「温清飲(ウンセイイン)」などの漢方をあらかじめ継続的に服用して頂く事も検討して参ります。

 

子宮筋腫・子宮腺筋症に対しては偽閉経療法

これまでも、過多月経の原因が子宮筋腫や子宮腺筋症であり、妊娠のご希望がない方に対しては、人工的に閉経状態にする“偽閉経療法”を行うことは少なくありませんでした。
ただし、副作用として更年期症状や骨量低下などが認められることから、使用は6か月間までと制限されています。
そのため、当院では、よほど病変部が大きくない限り、血液検査で鉄欠乏性貧血が認められてから偽閉経療法を行っていました。
しかし、これからは、現在貧血がみられなくても、前段階である鉄欠乏症である場合や、将来貧血になると予想される場合には、早めに偽閉経療法を検討したいと考えています。

 

状況に応じて各種ホルモン製剤の使用も

低用量ピル(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)や黄体ホルモン製剤(内服薬)には、月経量を減らすことや、月経自体を起こさないようにする作用があります。特に、月経困難症が認められる場合には保険適応となります。
また、子宮内黄体ホルモン放出システム(IUS)は過多月経でも保険適応となるため、特にお産の経験がある方にはお勧めです。
これら各種ホルモン製剤については状況に応じて、貧血になる前の早い段階で提案させて頂こうと考えています。

 

貧血になると血液がサラサラになり、出血しやすくなります。
そして、出血量が増えると益々貧血となり、さらに出血量が増える、といった悪循環に陥ります。
止血剤の選択肢が限られてきた現在、貧血になる前に手を打つよう、お一人おひとりに合った治療法を提案させて頂きます。