院長コラム

貧血治療剤「フェインジェクト静注500㎎」を用いた鉄欠乏性貧血の治療について

我が国における20~49歳の女性の4~5人に1人は、鉄欠乏性貧血であるといいます。
この年代の貧血の原因として過多月経や妊娠が考えられているため、女性の貧血治療に対する産婦人科医の役割は非常に大きいと思われます。
最近、鉄欠乏性貧血治療薬「フェインジェクト静注500㎎」の添付文書が一部改訂されました。今回は、当院における「フェインジェクト静注500㎎」を用いた鉄欠乏性貧血の治療について説明します。

 

妊娠・分娩に伴う鉄の必要量

ある海外の研究によりますと、正常妊娠における鉄の必要量(総量)は1240㎎であり、その内訳は、赤血球量の増加分が450㎎、赤ちゃんへ移行する鉄が270㎎、日々の喪失分の合計が230㎎、出産時出血の鉄が200㎎、胎盤と臍帯の鉄が90㎎となっています。
これら総必要量の内、610㎎は再利用されるため、妊娠および出産に関連する正味の鉄喪失は、1240㎎から610㎎を引いた630㎎となるようです。
言い換えれば、妊娠中に鉄を補給しないと、理論上最大630㎎の鉄が不足する計算となります。

 

「フェインジェクト静注500㎎」の用法・用量

妊娠時および分娩後の貧血に対して、まずは内服薬が勧められていますが、内服薬に伴う消化器症状が強い方や、分娩時の出血が多い方に対しては、静脈注射を使用することがあります。
静脈注射剤の中でも、少ない投与回数で高い治療効果が期待できる「フェインジェクト静注500㎎」を使用するケースが最近増えているようです。
「フェインジェクト静注500㎎」の用法・用量は、体重が35kg以上70㎏未満の方の場合、血中ヘモグロビン値(Hb)が10.0g/dl未満の方には合計1,500㎎(週1回、一回あたり500㎎、計3回)、Hb:10.0g/dl以上の方には合計1,000㎎(週1回、一回あたり500㎎、計2回)の投与となっております。

 

当院における鉄欠乏性貧血治療の流れ

当院では、副作用としての胃腸症状が比較的少ない「リオナ錠」や漢方薬「人参養栄湯」などを第一選択として処方しています。
ただし、内服薬の副作用が強い方や、分娩後出血が多いため静注が望ましいと判断した場合は、「フェインジェクト静注500㎎」を使用しています。
フェインジェクト静注を使用した際、初回投与の4週間後からHbが上昇し、最終投与の4週間後にはHbが最高値に至るとの報告があります。
そのため、適宜血液検査でHbやフェリチン値(貯蔵鉄を反映)を確認しながら治療方針を立てています。

 

妊娠をお考えの女性は、妊娠する前から鉄や葉酸などのミネラルやマルチビタミンが含まれているサプリメント(エレビットなど)を継続的に摂取することが勧められます。
また、分娩後貧血の方は貧血のない方に比べて、産後うつになりやすいとの報告もあります。
当院では、妊娠中だけでなく分娩後も、血液検査で貧血が認められた場合は、積極的に鉄剤を投与し治療して参ります。